🔭コラム「TPPにおけるプロバイダ関連条項」

TPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋パートナーシップ協定)に伴う法改正は多岐に亘り、知的財産制度に関連するものだけでも相当なボリュームである。現時点で法改正の対象になっているわけではないが、インターネット・サービス・プロバイダ(以下、プロバイダ)関連の点について、少し述べてみたい。
 TPPでは、知的財産制度関連は第18章に規定があり、18.82条では、著作権の侵害に関し、プロバイダが責任制限を受けるための条件を法令に定めることを要求している*1。「日本には、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)があるのだから、この要求はクリアしている」といえるだろうか。
 TPPの内容には、米国の制度に近いものが相応にある*2。プロバイダ関連規定もそうだとすると、想定されているのは、DMCAのノーティス・アンド・テイクダウン制度*3であろう。これに照らすと、日本のプロバイダ責任制限法は、「どうすればプロバイダが免責を受けられるのか」が必ずしも明確とはいえないので、18.82条の要求を充たしていないとされる可能性もある。
 もっとも、18.82条には例外がある。すなわち、注154において*4、政府の参加を得て設立されている利害関係者の組織が存在し、なおかつ、この組織において、著作権侵害通知の有効性を判断する際の手続が定められ、維持されることを要求している*5。日本では、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会という組織が、「プロバイダ責任制限法 著作権関係ガイドライン」を定めているので、注154の要求を充たすかどうかが、次に問題となる。
 注154にいう、利害関係者というのは、「プロバイダ及び権利者の双方の代表者を含む。」と規定されている。プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会には、電気通信事業者団体と著作権関係団体(及び商標権関係団体)が入っているので、利害関係者の要件はみたすといえるだろう。問題は、「政府の参加を得て」の部分である。プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は、総務省、文化庁、特許庁が入っているのだが、あくまでオブザーバー参加である。事柄の性質上、表現の自由と関連するので、政府がオブザーバー参加なのはある意味当然なのだが、それがために、ここにきて、この要件を充たすかどうかが微妙になっているわけである。
 この問題は、著作権業界ではあまりスポットが当たっているようには思われないし、法改正なり運用の変更に結びつくかどうかも未知数であるが、注目しておいてよい問題だと思っているので、今回取り上げた次第である。

*1 18.82条(訳は、内閣官房・TPP政府対策本部 TPP協定の暫定仮訳(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/tpp_zanteikariyaku.html)に基づくが、下線は筆者。以下同じ)

  • 1.締約国は、プロバイダが提供するオンラインサービスに関する適当な免責を確立し、又は維持する。この法的な救済措置及び免責の枠組みには、次の事項を定める。
  • (a)【略】
  • (b) プロバイダが管理し、開始し、又は指示することなく行われ、当該プロバイダによって管理され、又は運営されるシステム又はネットワークを通じて行われる著作権の侵害について、当該プロバイダに対して金銭上の救済措置を課することを排除する効果を有する当該締約国の法令における制限
  • 2.【略】
  • 3. 各締約国は、侵害行為に対処するための効果的な行動を円滑にするため、プロバイダが1(b)に定める制限の適用を受けるための条件を自国の法令に定め、又はこれに代えてプロバイダが1(b)に定める制限の適用を受けない場合について定める。

*2 知財制度でいえば、例えば、実演とは、「別段の定めがある場合を除くほか、レコードに固定された実演をいう」としている点など。
*3 著作権侵害紛争が発生した場合、プロバイダは、削除依頼があったことを発信者に通知し(ノーティス)、コンテンツを削除する(テイクダウン)、という、機械的な対応を行いさえすれば、あとは、当事者間での訴訟の推移を見守れば足りる、という仕組み。
*4 TPPの原文では注154だが、政府暫定仮訳では注1となっている。
*5 締約国は、次に掲げる枠組みを維持することにより、この3にもとづく義務を履行することができる。
(a) 政府の参加を得て設立されている利害関係者の組織(プロバイダ及び権利者の双方の代表者を含む。)が存在すること。
(b) (a)に規定する利害関係者の組織により認定された団体が、著作権の侵害を申し立てる個々の通知の有効性につき、不当に遅延することなく、当該通知が錯誤又は誤認の結果でないことを確認することにより検証するための効果的な、効率的な及び時宜を得た手続……を当該組織が定め、及び維持すること。

(RC 桑原 俊)

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