🔭コラム「第4次産業革命と知財(張 睿暎)」

2016年1月20日から23日までスイスのダボスで開かれた第46回世界経済フォーラム(WEF)年次総会の主要テーマは、「第4次産業革命の理解(Mastering the Fourth Industrial Revolution)」であった。 WEFは「第4次産業革命」を、「3次産業革命をベースにした、デジタルとバイオ産業・物理学などの境界を融合する技術革命」と定義している[1]。

「第4次産業革命」という用語は、本来ドイツの「Industry 4.0」戦略における製造業と情報通信の融合段階を指していたが、最近は、インターネットプラットフォームを基盤に、もの・人・空間・産業を繋げて、人類の生活方式を変化させるものという概念にまで拡大した。まだ具体的な形はわからないが、技術の融合により生まれる人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、ビックデータ、3Dプリンティング、ロボット、AR(増強現実)、自動車の自律走行機能、ナノバイオテクノロジーなどが、「第4次産業革命」が生み出す主要な技術の例とされる。

米国では先端技術と資金力を有する民間が変化を主導しており、ドイツは製造業におけるIndustry 4.0生態系を構築、中国も巨大市場を武器に浮上している。日本も国を挙げて検討を始めたところである。経済産業省は、「第4次産業革命」の下での経済・社会情勢に対応する企業の経営・知財戦略とそれを支える知財制度・運用の在り方についての検討を行うために、有識者による「第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会」を発足させた。検討会は2016年10月17日に第1回会合を開催し、第4次産業革命の中で検討すべき知財システム上の論点を提示した[2]。2017年3月末には、中間整理とりまめを行う予定であるという。

韓国も2016年11月30日に大統領所属の国家知識財産委員会が、「第4次産業革命、知識財産の役割と方向」をテーマに、国家知識財産ネットワーク(KIPnet)カンファレンスを開催し[3]、12月23日には、第18次国家知識財産委員会が「第2次国家知識財産基本計画(2017-2021)[4]」を審議した。「国家知識財産基本計画」は、知識財産基本法に基づき2011年から5年ごとに樹立する計画で、今回は特に「第4次産業革命」時代における知識財産競争力を極大化することに焦点を当てている。政府は2017年から5年間、「第4次産業革命」を先導する知的財産競争力を確保するために、4兆700億ウォン(約4,070億円)を投入するとした。AIやビックデータなど新技術にかかる知的財産の保護体系を定立し、AI創作物の権利認定などを検討するために、国家知識財産委員会の中に「次世代知識財産特別専門委員会」を運営することも決定した。次世代知識財産特別専門委員会は、国内外の調査を通じて候補論点を発掘し、未来技術に及ぼす影響力等を基準に論点を選定、それらが知的財産制度や科学技術に及ぼす影響を分析して、「未来知的財産の論点分析及び対応戦略報告書」を発表する予定である。候補論点としては、AI、3Dプリンティング、IoT、ロボットの法的地位[5]などが挙げられる。2017年2月15日には、第1回委員会を開催し、「未来知識財産の論点分析及び対応戦略の樹立」に着手した[6]。

ところで、「第4次産業革命」の余波は、韓国において憲法改正の議論にまで及びそうである。2017年2月14日に開催された国会の「世界IPハブ国家推進委員会」主催の政策懇談会では、「昨今世界が第4次産業革命の波に乗り急速に変化しているにもかかわらず、我が国の憲法は、科学技術と知識財産の重要性を看過している。現在の改憲の議論は政治領域に偏っているが、本当に改憲をするなら、第4次産業革命時代に合わせて、憲法に科学技術及び知識財産条項を追加すべきである」という意見が出た[7]。韓国憲法第22条第1項は、「著作者・発明家・科学技術者と芸術家の権利は法律で保護される」とし、同第23条第1項は、「全ての国民の財産権は保障される」としている。第9条では「国家は伝統文化の継承発展と民族文化の暢達に努めなければならない」としているので、知的財産を保護する根拠がないわけではないが、知的財産が直接的に憲法に規定されてはいない。

それに比べて、米国、欧州連合、ドイツの最高規範は知的財産の保護を明示しているというのである。米国憲法第1条第8節第1項には「連邦議会は以下の権限を持つ。(以下略)」とあり,同節第8項に「著作者および発明者に対し、著作または発明に関する独占権を一定期間に限って保証することにより、科学及び有用な芸術の進歩を奨励する」とある。欧州連合の基本権憲章第17条第2項は「知的財産権は保護されなければならない」と規定している。ドイツ基本法も、連邦の専属的立法権を規定した第73条で、第9項が産業財産権、著作権、出版権の保護を直接的に規定している。これらを根拠に、知的財産権を憲法的に保護すべきという意見も見られるほど、「第4次産業革命」は知的財産権制度全般に大きな影響を与えているといえるだろう。

知的財産制度は、第3次産業革命において技術革新の土台となった。これからの第4次産業革命における知的財産制度の重要性は、今までよりもさらに大きくなるだろう。

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[1]
“The Fourth Industrial Revolution: what it means, how to respond”.(WEF,14 January 2016) https://www.weforum.org/agenda/2016/01/the-fourth-industrial-revolution-what-it-means-and-how-to-respond/ (最終訪問日2017.2.20.)

[2] 第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会(第1回)‐配布資料2「第四次産業革命の中で知財システムに何が起きているか」http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/daiyoji_sangyo_chizai/pdf/001_02_00.pdf (最終訪問日2017.2.20.)

[3] 未来創造科学部プレスリリース「国家知識財産ネットワークカンファレンス開催」(2016.12.1.)

http://www.msip.go.kr/web/msipContents/contentsView.do?cateId=mssw311&artId=1318943 (最終訪問日2017.2.20.)

[4] http://ipkorea.go.kr/uploads/b_item/281.pdf(最終訪問日2017.2.20.)

[5] 欧州連合でも検討されている。European Parliament Press release, “Robots: Legal Affairs Committee calls for EU-wide rules”. (12-01-2017) http://www.europarl.europa.eu/news/en/news-room/20170110IPR57613/robots-legal-affairs-committee-calls-for-eu-wide-rules (最終訪問日2017.2.20.)

[6] 未来創造科学部プレスリリース「次世代知識財産特別専門委員会開催」(2017.2.15.) http://msip.go.kr/SYNAP/skin/doc.html?fn=70da35a1786ab60aaee9827136f460f9&rs=/SYNAP/sn3hcv/result/201702/(最終訪問日2017.2.20.)

[7] 개정헌법에 ‘지식재산’ 명시하자 (Science Times, 2017.2.14.)

http://www.sciencetimes.co.kr/?news=개정헌법에-지식재산-명시하자

(RC   張睿暎)