2020年10月17日に、中国の第四次特許改正案が中国第十三次全国人民代表大会常務委員会第二十二回会議で可決され、2021年6月1日から施行されることになった。今回の第四次特許改正で医薬品関連の特別な特許制度も創設され、中でも、医薬品のパテントリンケージ制度が国内外の医薬品業界から大きな注目を集めている。本文は、中国における医薬品のパテントリンケージ制度の概要及びその影響について説明し、また、日本企業の対応措置についてもアドバイスを提供することを試みる。

一、中国における医薬品のパテントリンケージ制度とその趣旨 

 中国における医薬品のパテントリンケージ制度とは、医薬品販売認可の審査手続きを医薬品特許紛争解決手続きと連携することにより、後発医薬品(ジェネリック医薬品)に特許権侵害の疑いがある場合、国家医薬品監督管理部門が当該後発医薬品の販売認可の申請を拒絶することができるという制度を指す。中国で医薬品のパテントリンケージ制度を創設する趣旨は、他の知財先進国と類似し、即ち、この制度は事前に医薬品に関する特許紛争を解決し、先発医薬品企業と後発医薬品企業との間の利益平衡を達成することにより、先発医薬品に係る特許権を保護し、先発医薬品企業による新薬開発の意欲を激励するとともに、後発医薬品企業に後発医薬品を積極的に製造させることができるので、医薬品に関する社会公衆ニーズをよりよく満たし、医薬品業界の発展を促進することができる。

二、中国における医薬品のパテントリンケージ制度の沿革 

 1.2017年5月、元国家医薬品監督管理局が『医薬品医療機器イノベーションの推奨、イノベーター権益保護に関する政策(意見募集稿)』を発表し、初めて中国医薬品パテントリンケージ制度の創設構想及び内容の概ねを提出し、医薬品の市場進入に関する審査手続きにおいて他人の特許権を侵害するかを考慮に入れなければならないことを明確化した。
 2、2017年10月、中国中共中央弁公庁、国務院弁公庁が『審査承認制度改革の深化と医薬品医療機器イノベーションの推奨に関する意見』を公布し、パテントリンケージ制度の創設に政策ガイドを提供することができた。
 3、2020年9額、国家医薬品監督管理局総合司と国家知的財産権局が『医薬品特許紛争早期解決メカニズム実施弁法(試行)(意見募集稿)』(以下で、『紛争早期解決意見募集稿』という)を発表し、当該意見募集稿が医薬品パテントリンケージ制度に関する具体的な内容を系統的に規定し、且つ、起草説明において当該募集稿の起草背景及び内容のポイントを説明した。
 4、2020年10月17日、中国第四次特許改正が成立し(2021年6月1日から実施)、その第76条に医薬品パテントリンケージ制度を明文で規定している。但し、それは医薬品パテントリンケージ制度の基本的な枠組のみを規定するもので、詳細については国務院医薬品監督管理部門と国務院特許行政部門により制定されることになった。現段階では、『紛争早期解決意見募集稿』は、中国医薬品パテントリンケージ制度の全貌を予見するための最重要な参考資料である。

三、『紛争早期解決意見募集稿』に記載されている中国医薬品許可特許連携制度の主な内容 

 1、特許情報登録
 当該意見募集稿の第2~5、12、15条によれば、医薬品監督管理局は中国市販医薬品に関する特許情報登録プラットフォームを設立し、医薬品許可の所持者が中国市場進入を許可された医薬品に関する特許情報を当該プラットフォームに登録することができる。また、登録の内容、及び未登録、虚偽登録、並びに特許情報変更の遅滞による可能の結果が詳しく規定されている。
 1)特許情報登録の主体とタイミング
    当該意見募集稿の第4条の規定により、医薬品の審査期間中に、医薬品の申請人が特許権を取得した場合、公告授権日から30日間以内に登録でき、登録情報には変更がある場合、変更情報の発効日から30日間以内に登録を変更しなければならない。上記規定の期間に情報登録をしない場合、当該規定に基づき医薬品申請人の権益を保護することができなくなる。
 2)登録特許の種類
 当該意見募集稿の第5条、第12条の規定に基づき、登録可能の特許種類には以下の三種類がある。即ち、①化学医薬品特許については、具体的には医薬物活性成分化合物特許、活性成分含有の医薬品組成物特許、医薬用途特許などを含み、②生物製品については、配列構造特許が登録可能で、③漢方薬については、漢方薬組成物特許、漢方薬抽出物特許、医薬用途特許が登録可能である。
 3)虚偽登録の結果と法的責任
 当該意見募集稿の第15条の規定に基づき、意図的に関係のない他の特許を当該プラットフォームに登録する場合、医薬品申請人及びその代理人に対して法に基づき信用喪失連合懲戒を実施し、申請人がその後の一年間に再び当該種類の登録を申請できなくなり、且つ、他の法律による処罰を妨げないとされる。

 2、特許声明制度の設立
 当該意見募集稿の第6条、第12条の規定に基づき、化学後発薬や生物類似薬や漢方薬同名同処方薬の申請人が医薬品市場進入許可の申請を提出する場合、すでに中国市販医薬品に関する特許情報登録プラットフォームに登録した特許情報を参照し、先発薬に係る各医薬品特許に対して声明を発表し、且つ声明の依拠を提供しなければならない。声明が以下の四種類がある。

 第一類声明:中国市販医薬品に関する特許情報登録プラットフォームに先発薬に関する特許情報がない。
 第二類声明:中国市販医薬品に関する特許情報登録プラットフォームに登録した先発薬に関する特許がすでに終止し、又は無効宣告された。
 第三類声明:中国市販医薬品に関する特許情報登録プラットフォームに先発薬に係る特許が収録されているが、対象特許の有効期間に当該後発薬を市場に投入しないことを後発薬申請人が承諾する。
 第四類声明:中国市販医薬品に関する特許情報登録プラットフォームに登録した先発薬に関する特許情報が無効宣告されるべきで、又は、当該後発薬が対象特許の保護範囲に含まれていない。

 3、異議手続き
 当該意見募集稿の第7条の規定に基づき、先発薬特許権利者が異議を申し立てる条件は以下の通りである。
  A.国家医薬品審査承認機構が医薬品市場進入許可申請を公告した日からの45日間に、市場進入を申請する医薬品の関連技術案が関連特許の保護範囲に含まれているかについて、人民法院に提訴し、又は、国務院特許行政部門に行政裁決を申請する。
  B.人民法院又は国務院特許行政部門が立件し、又は、受理した日から10日間に、受理通知書の副本を国家医薬品審査承認機構に提出する。
 当該規定に基づき、先発薬会社が規定されている期間に上記条件により異議を提出しないと、医薬品監督管理局が技術審査の結論と後発薬申請人による声明に基づき、直接に市場進入の可否について決定を出す。

 4、異なる種類の声明による分類処理メカニズム
 1)当該意見募集意見稿の第7~13条に基づき、化学後発薬市場進入申請の審査承認手続き及びその処理方式は大体下図の通りである。その内、第四類声明に係る化学後発薬許可申請について、当該意見募集稿の第8条は、9月間の待ち期間を設定し、ただし、待ち期間には国家医薬品審査承認機構による技術審査が停止しない。
 2)当該意見募集意見稿の第12条に基づき、生物製品や漢方薬の市場進入申請の審査承認手続き及びその処理方式は大体下図の通りである。但し、ご注意の必要なことは、化学後発薬に関する申請と異なり、当該意見募集稿の第13条の規定により、生物類似薬と漢方薬に関する申請については待ち期間がなく、技術審査の結論に基づき、直接に許可するかを判断する。

 3)その以外、当該意見募集稿の第7条の規定により、第一、二、三類声明について利害関係者が同様で異議を提出できるが、上図から見れば、この三種類異議に関する処理方法が第四類声明への異議と同様であるかについては不明である。そのため、今後の制度整備において、この三種類声明について異議を提出する場合、どのように処理すればよいかという問題を明らかにする必要がある。

 5、奨励政策
 当該意見募集稿の第11条の規定に基づき、成功して特許を挑戦し、且つ、市場進入の許可を受けた初めての化学後発薬申請人に対して、奨励があり、即ち、今後の12カ月以内に他の同種類の化学後発薬の市場進入が許可されないことである。当該規定の目的は、化学後発薬申請人に対して特許挑戦を奨励することによって、対象特許が無効とされた場合に、社会公衆の用薬コストの低減を期待することができる。

四、医薬品パテントリンケージ制度の影響 

 『紛争早期解決意見募集稿』の内容からすれば、中国医薬品のパテントリンケージ制度の影響が主に以下の面に反映されている。
  1.先発医薬品企業と後発医薬品企業との間の利益平衡
 先発医薬品企業は特許権が侵害されるリスクを防ぐために、随時に後発薬申請の動向を注目し、事前に特許挑戦の対応を準備することもできる。
 一方、後発医薬品企業が特許権侵害を回避するために、先発医薬品企業の登録した各特許情報を十分に精査し、後発薬の技術案を適宜に調整し、且つ、適切なタイミングに特許に挑戦することが可能である。
 2.特許侵害紛争の早期解決
 医薬品市場進入許可手続きと医薬品特許侵害紛争解決メカニズムとの連携が強化されるため、医薬品市場進入前に特許侵害紛争を解決することは望まれている。
 3.後発薬の安定供給による公益の達成
 こうすれば、後発薬市場進入に関する審査、承認を加速でき、そして、社会公衆による医薬品ニーズがよりよく満足され、医薬品分野の発展を促進できる。

五、日本企業へのアドバイス:

 『紛争早期解決意見募集稿』に規定されている特許情報登録制度、特許声明制度、異議申立手続きなどの制度に基づき、日本企業の立場から、以下の対応をすることができる。
 1、先発医薬品企業として、積極的に上記市販医薬品に関する特許情報登録プラットフォームを利用し、タイムリーで正確に市場進入した医薬品に関する特許情報を登録し、且つ、随時に関連後発薬申請の動向を注目するべきである。
 関連行政裁決又は侵害訴訟の場合に備えて、特許技術特徴分析書、起訴状、及び行政裁決申請書などのテンプレートを含む必要な書類を用意しておく必要がある。特許権が挑戦される場合、規定の期間内に速やかに行政裁決又は特許権侵害訴訟を提起しなければ、後発薬市場進入を阻止するチャンスを逃してしまうからである。なお、上記作業が煩雑で、且つ、対応期間が比較的短いため、なるべく専門的な中国法律サービス機構に委任し、連携で対応するのは望ましい。
 2、後発医薬品企業として、これから市場進入の審査を受ける医薬品について、市販医薬品に関する特許情報登録プラットフォームを有効に利用し、関連特許情報を検索し、誠実に関連声明を提出することによって、虚偽声明と認定されるリスクを回避する必要がある。
 それとともに、事前に特許侵害の可能性について鑑定し、特許権侵害を回避することが可能な医薬品の技術案を開発することによって、将来に特許侵害訴訟に巻き込まれるリストを回避又は低減することができる。また、12カ月の市場独占期間を獲得するために、適切なタイミングに、市場に進入した医薬品に係る特許権に対して積極的に挑戦することもできる。

〈秦玉公(RC:中国弁護士)〉