去る6月14日をもって、知財高裁の飯村敏明所長が定年退官された。他方、米国CAFC(連邦巡回控訴裁判所)のレーダー長官も、6月末日をもってCAFC裁判官を退官された。飯村所長とレーダー長官は、多年にわたって盟友関係にあり、日米の裁判官が共同参加する知財シンポジウム等の開催等において協働してきた。日米両国において永年にわたって知財訴訟を主導してきた二人が、偶然ながら、ほぼ同時期に裁判所を去ることになった。飯村所長と私は、1998年から7年間東京地裁知財部の姉妹部(民事29部と民事46部)の裁判長として一緒に知財事件の審理に当たったほか、2006年から2008年まで2年間知財高裁の同一部の構成員として合議体を構成した間柄である。また、レーダー長官も、欧米や日本でのシンポジウム等を通じての友人である。お二人とも、大変に個性的な人物であり、訴訟指揮や判決といった裁判官の枠組を超えて、法廷の外においても、論説、講演をはじめとする言動により、知財分野に多大な影響を与えていた人物である。お二人が去った後の日米知財専門裁判所の動向を予想することは、現時点では難しいが、お二人によって築かれた知的財産権重視の風土は、日米の裁判所によって今後も守られていくものと考える。
 ところで、私の執務室には、7月1日からドイツからの研修生が滞在している。昨年は、7月から3か月間、ドイツの司法修習生 Jesco Lindner 氏が私のもとで修習した。ドイツからの研修の受入れは、今回が2回目になる。今回は、DAAD研修生 Daniel Kaneko 氏が7月から12月末まで6か月間私のもとで研修する。「DAAD」とは、「Der Deutsche Akademische Austauschdienst」(ドイツ学術交流会)の略称で、ドイツ連邦共和国の大学が共同で設置している機関であり、連邦の公的拠出金を財源基盤として運営されている。DAADは、ドイツから諸外国への留学・研修プログラムのほか、諸外国からドイツへの留学・研修プログラムも提供しているから、早稲田大学でも、DAADの奨学金に応募する学生は、少なくないであろう(なお、DAADのホームページは、https://www.daad.de/de/index.html。DAAD東京事務所のホームページは、http://tokyo.daad.de/wp/category/ja_news/)。Kaneko 氏のプログラムは、1年6か月の日本における研修であり、9か月の日本語研修、6か月の実務研修と2か月の官公庁研修などから構成されている。現在は、6か月の実務研修期間中である。
 Kaneko 氏は、ドイツのケルンの生まれ。デュッセルドルフ大学法学部で履修し、司法試験合格後に、DAADの研修生として来日した。デュッセルドルフ大学では、早稲田大学RCLIPと関係の深い知財法中央研究所(Zentrum für Gewerblichen Rechtsschutz)の Jan Busche 教授のもとでアシスタントを務めていたという経歴の持主である(同研究所のホームページは、http://www.gewrs.de/)。Kaneko 氏は、DAADの研修後は、ドイツに帰国して、知的財産法分野で博士論文を執筆する予定である。今後、早稲田大学RCLIP主催の催しには、積極的に参加する予定なので、よろしくお願いします。
 私のもとで、Kaneko 氏は、日本の司法修習生とほぼ同様の研修を行っている。研修内容は、外国法調査をはじめとする法廷活動準備作業の補助、依頼者(訴訟当事者)との打合せへの同席、法廷活動の傍聴のほか、各種の外部研究会への参加である。Kaneko氏は、語学研修の甲斐あって日本語も相当程度上達しており、事務所では、日本語、ドイツ語と英語が飛び交っている。私自身のドイツ語の勉強のためにはドイツ語でのやりとりを増やしたいのだが、Kaneko 氏の日本語の勉強のためには、それもままならない状況である。

(RC 三村 量一)