今年の7月になると、台湾の智慧財産法院は、設立8周年を迎えます。特に節目の年ではありませんが、2年後の10周年を実りある年にするべく、智慧財産法院は、様々の変革を進めています。
 きっかけは、2013年12月27日からの二日間に開催された特許分野の産官学シンポジウム*1 。その場で、智慧財産法院の発足以来、全国の侵害訴訟実務において蓄積してきた問題点が取り上げられました。まず、特許権者の勝訴率は、全国の案件で統計する場合は、たったの11.6%;次に、智慧財産法院で審理された案件のうち、特許権が進歩性なしとして無効と認定された比率は66.95%;更に、侵害訴訟が一・二審ともに智慧財産法院で審理された場合、原判決維持の比率は97.1%;最後に、勝訴しても、損害賠償の金額は非常に低く、数件の億単位の賠償を勝ち取った特殊な例を除けば、長い裁判の末認められた賠償の金額は、一般的に50万台湾ドル以下でした*2
 こうして、智慧財産法院に対する批判は強いのですが、公正な裁判を行った以上、特許権者の勝訴率やら、原判決の維持率やら、そのような理由で裁判所を戦犯扱いするのは、あまりにも理不尽な話です。加えて、そもそも損害賠償の金額が低いというのは、智慧財産法院が発足する前にあった話だから、立法及び司法の全体がその責任を取るべきだと思います。ただ、一つだけ重く受け止めなければならないのは、侵害訴訟において、特許権が進歩性なしとして無効と認定された比率が7割近くに上ると、それは極端な数字だと言わざるを得ません。
 苦しい立場に立たされている智慧財産法院は、恐らく色々と悩んでいました。そして、無効認定率の低減にも取り組んでいましたが、その取り組みで、またもやまさかの結果が出てきました。2014年の末、智慧財産法院が公表した年間統計によると、侵害訴訟において、特許権が無効と認定された比率は、なんと31.75%でした。1年間のうちに、特許権無効の認定率が66.95%から31.75%までに下げたということは、それもそれで極端な変化に思えて仕方ありません。なぜなら、認定の基準をガラッと変えない限り、このような結果は出てこないからです。
 確かに、特許権無効の認定率が7割近くに上る原因は、裁判所の認定基準が厳しすぎることにあるかもしれません。だが、特許出願の審査にあたる行政機関の審査基準が緩すぎるせいで、裁判において無効認定の割合がここまで上ってしまったのも、考えられない話ではなく*3、実際に、行政当局である智慧財産局の審査基準の緩さを批判する声も存在します*4
 結局のところ、批判に影響されて右往左往をしても、批判は収まりません。智慧財産法院が本当に求められているのは、問題の根底を掘り出し、それを解決できる能力であり、私は、日々努力している智慧財産法院の裁判官たちは、皆その力を持っていると信じます。ですから、変えるべきものをちゃんと見極めて、個々の裁判官が自らの力を発揮できる環境を、どうか、守ってください。

 

*1 https://www.beclass.com/share/201312/740787981378jgx_0.pdfを参照。
*2 http://www.naipo.com/Portals/1/web_tw/Knowledge_Center/Industry_Economy/publish-179.htmを参照。
*3 実際に、脚注2で示した記事の作者も責任はどちらにあるかは明言しておらず、日本の特許庁が公表した報告書にも、前述の作者と同様の見解が掲載されており、その詳細は、http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/manual/pdf/taiwan12.pdfを参照。
*4 http://www.naipo.com/Portals/1/web_tw/Knowledge_Center/Infringement_Case/publish-78.htmに載っている記事が、その一例。

(RC 陳 柏均)