物の形というものは、やはり実際に見てみないと良く分からないということがあります。
Wal-Mart Stores, Inc. v. Samara Brothers, Inc., 529 U.S. 205(2000)は、trade dressに関する米国連邦最高裁の著名な判決ですが、その中に” Consumers are aware of the reality that, almost invariably, even the most unusual of product designs-such as a cocktail shaker shaped like a penguin-is intended not to identify the source, but to render the product itself more useful or more appealing.”という一文が登場します。ペンギンのような形をしたカクテルシェーカーといった最も普通ではないプロダクトデザインでさえ需要者は出所を特定する意図のものではなくプロダクトをより使い易くあるいはより魅力的にするためのものであることを知っている、したがってプロダクトデザインはinherently distinctiveではないと説示するくだりです。私はこれを読む度に「そうだそうだ」と賛辞を送りつつも、しかし「そもそもペンギンの形をしたカクテルシェーカーとはなんぞや?」と頭の中にクエスチョンマークがたくさん付く思いでおりました。常に気に掛かっており、いつかそのようなシェーカーを見てみたいものだと考えておったわけです。

弁理士の仕事をしております。仕事が遅いので、往々にしてかなり深い時間まで事務所に残っていることになります。近くにたまたま明け方までやっているバーがあるものですから、そのようなときは頭を冷やすために立ち寄ります。先ずギネスを2杯飲みまして、その後バーテンダーに勧めて貰ってスコッチかカクテルを一、二杯頂いて、帰宅します。そういうルーチンでかれこれ10年近く生活をしているわけですが、ある日ふとカウンターから見上げると、なんと目の前の棚の上に、ペンギンの形をしたカクテルシェーカーが置かれていたのです。そのバーにはびっくりするくらいウィスキーのボトルがありまして、仮に毎日一杯ずつ飲み続けても飲みきるのに数年掛かかるらしいのですが、そのような色も形も様々なボトルたちの狭間で、薄暗い照明に照らされて、彼はそこで微かな光を放っていたのです。
おお。
いつも気に掛かっていたのに、知らずにほぼ毎日のようにその下で酒を飲んでいたわけです。とんまな話しなのですが、そのときはまるで生き別れの家族にでも出会ったように大いに感激致しまして、もちろん私はバーテンダーに、延々と当該連邦最高裁判決の意義を語ったわけです。
とても迷惑であったろうと思います。

それは兎も角と致しまして、で結局それを実際に見た感想は、「こりゃ使えんな」というものでした。決してシェーカーとして、これはusefulではない。羽が邪魔で、これじゃ振れない。加えて、usefulではない以上、需要者であるバーテンダーには必ずしもappealingではないのではなかろうかと。前掲の連邦最高裁判決も、そうなってくると、やや違った味わいを帯びて参ります。
物の形は、確かに実際に見てみないとよく分かりません。

五味飛鳥(RC)