🔭 古代遺物の発表者に著作隣接権?―欧州及びドイツの遺作著作物保護権をめぐって(志賀典之)

  保護期間が満了した著作物は、パブリックドメイン(以下PD)になることによって、文化の発展に寄与する。だが、PD著作物であっても、その伝達に関しては別の権利、つまりは著作隣接権が成立することを、法制度は否定していない。わが国現行法では、実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者の4者に著作隣接権が認められるが、これら4種に限られていることは、必ずしも自明のこととは言えない。他国の法制度を参照すると、これらのほかにも多様な著作隣接権の存在に容易に気付く。
  (なお、あらかじめお断りしておくが、筆者の意図は紹介に過ぎず、わが国においてもそのような権利を認めよという主張をする意図はない)。

 例えばEU保護期間指令[1]4条は、次のように、著作権保護期間経過まで未公表であった著作物について、その発行者に25年の保護を定めている。

Article 4 未発行著作物の保護
 未発行著作物(a previously unpublished work)を、著作権保護期間経過後に、最初に適法 に発行し、又は、適法に公衆に伝達 (communicates to the public)する者は、著作者の経済的権利と同等の保護を享受する。かかる権利の保護期間は、適法に発行され、又は適法に公衆に伝達されてから25年とする。

 これに応じて、欧州各国法を概観すれば、フランス法123の4条第3項、オランダ法45o条、イタリア法85条の3などに同種の規定が見られる。EUからの離脱を決めた英国も、1996年著作権及び関連法規則16条に同種の規定を置いている。

 だがそもそも、なぜこのような権利が設けられているのか?
 第一に、遺作著作物を発見し、その価値を認識して公表した行為を称賛し、第二に、それを公衆に提示・提供した行為について報償すること。第三に、莫大なものであることも多い遺作著作物発見に掛けられた労力と投資の回収を可能にし、公表のインセンティヴを創設するものであること、などと説明されるようである[2]。

 さて、一風変わった規定を置いているのがドイツ法である。ドイツ法は、この保護期間指令4条に(一部)対応する規定として、著作隣接権の一つとして、71条に次のような規定を置いている。

第71条 遺作著作物
 (1) 未発行著作物を、その著作権消滅後に、適法に、最初に発行し又は最初に公衆に提示する者は、その著作物の利用について排他的権利を有する。この法律の適用領域でかつて保護されたことがなく、その著作者の死後70年を経過している未発行著作物についても、同様とする。
   ((2)項・(3)項(略))

 つまり、ドイツ法は、かつて著作権が存在したが保護期間が満了した未発行著作物のみならず、2文で、著作権保護を一度も受けたことのないほど古い著作物にも著作隣接権が成立することを明示しているのである。

 この第2文を適用し、先史時代の遺物に著作隣接権の成立を認めて物議を醸した極限事例として、マグデブルク地裁2003年10月23日の「ネブラ・スカイディスク」判決[3]がある。
紛争の対象となった「ネブラ・スカイディスク」[4]は、年代鑑定によれば3600年前のものとされる青銅器時代の遺物であり、1999年に山中から発掘され、直径32センチ、金メッキが付された青銅の円盤で、天体を表すと思しき図案が描かれ、考古学・天文学史上の貴重な発見とされている。
 原告は発見地のザクセンアンハルト州であり、同州は、州文化財保護法に基づき、スカイディスクの所有権者となっていた。被告は発見地のクヴェルフルト市であり、被告が、スカイディスクを図案化した図形商標の商標登録出願を行い商標登録されたのに対して、原告が71条の遺作著作物保護権に基づいて、商標登録抹消への同意の意思表示を求めたという事例である[5]

 この訴訟では、71条に関する様々な争点が浮かび上がった(その原因には、同条は、かつてほとんど顧みられず、昨今になって博物館の財源確保のために商品化の手段として注目され始めたという経緯があるため、紛争が少なく、各要件がさほど明らかにされてこなかったこともある)。とりわけ、権利者は誰か。そして、創作から時間がたてばたつほど、かつて発行されたのか否かに関しては立証が困難となる中で、未発行であることの立証責任はどちらが負い、何をもって足りるとするのか。

 地裁は、71条の目的に鑑みれば、遺作著作物の権利者は、その所有権者であり、本件では州であるとした。さらに、未発行であること、公衆に提示提供されていないことの立証は不可能と言ってよいが、だからといって権利を認めないのであれば、同条の趣旨は広く没却されるとして、地裁は、当該著作物が、長期間公衆に提示されていないことが確認され、被告はそれを覆すに足りる主張をしていないことが認められれば、未発行であると解すべきであるとして、原告への遺作著作物保護権の帰属を認めた。
だが、行方不明であっただけの著作物について、未発行を推定する地裁の判決には多くの批判もなされた。疑いのある場合には、むしろ、PD有利に解すべきである、とする主張などである[6]。

 その後、遺作著作物については、ついに最高裁まで争われた事例がある。
 2002年に原告ベルリン・ジングアカデミーの楽譜アーカイヴから発見された、かのヴィヴァルディ(1678-1741)の歌劇『モテズマ』に関する事例であった[7]。この作品は、史実ではスペインの征服に翻弄された中米アステカ帝国の末期の皇帝、モクテスマ2世を題材にしたもので、ヴェネツィアの劇場で1733年にヴィヴァルディ自身の指揮により初演されたのち、彼の存命中に楽譜がすでに行方不明となってしまい、台本だけが伝えられる幻の作品とされていた。
同作品は音楽学者たちの手で整備されたのち、2005年6月に、ロッテルダムで原告許諾のもとで演奏会形式により復活初演された。その後、被告が2005年9月から、原告の許諾を得ることなく、デュッセルドルフで舞台形式により上演した。原告は被告上演が、71条の遺作著作物保護権の侵害に該当するとして、損害賠償等を請求した[8]。

 最高裁はベルリン・ジングアカデミーの上告を棄却した。
 まず、行方不明となっていただけの著作物に71条が準用されることを否定したうえで、71条の「未発行」の立証責任を次のように示した[9]―

 原則として、著作物が「未発行」であることの説明及び立証責任は、71条に基づく請求を行う側(原告)が負う。しかし、著作物が「未発行である」こと等の証明は通常困難であるため、さしあたっては、原告は、著作物がこれまで発行されていないと主張すれば足りる。相手方はただ否認するだけでなく、期待可能性の範囲で、著作物がすでに発行されていることを肯定させる具体的事情を挙げねばならないとする。そして、原告は、その事情を覆せばその立証責任を果たしたということになる。

 そして本件では、「発行」はあったものと解された。初演関係者に上演・演奏のために複製物である楽譜の引渡しがされたことが認められるほか、また、原被間で争いのない音楽学者の知見によれば、18世紀イタリアの音楽界の慣行では、まず作曲家の手稿から「原本」が作成されて初演劇場に保管され、その後かかる「原本」から、諸侯や他の歌劇場興行主ら資力ある観客の注文に応じて、複製工房が複写譜を作成することになっていたところ、『モテズマ』についてはどうであったのか、現在ではもはや確認できないが、原告は反証を示さないゆえに、原告ジングアカデミーは、立証責任を果たしえなかったとされたのである。

 確かに、はるかな時を経て地中やアーカイヴに眠っていた作品を発掘し、現代に蘇らせる労苦は計り知れない。例えばわが国でも、そのような活動には、現行知的財産法制度が定める権利とは別種の保護を要請する固有の利益がある、と主張することも可能であろう。しかし、そのような労力・投資や公表のインセンティヴを、排他的権利の創設により保護することは、PDの再独占化をもたらすものであり、それが万人のPDへの自由なアクセス可能性という利益に(今なお)優越するのかについては、慎重な検討が必要であろう。仮にこのような著作隣接権を想定するにしても、また、一般不法行為に基づく保護を考慮するにしても、とりわけ、すでに制度を有するドイツの25年間という保護期間、財産的利用すべてに及ぶ権利範囲、「公衆への提示」を含むという要件などが、果たして適切であるだろうか。上記の事例は少なからず示唆をもたらすものと思われる。
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[1] Council Directive 93/98/EEC of 29 October 1993 harmonizing the term of protection of copyright and certain related rights, 最終改正 Directive 2011/77/EU of the European Parliament and of the Council of 27 September 2011.

[2] Schricker/Loewenheim, UrhG Kommentar 5.Aufl.§71, Rdnr.1

[3] LG Magdeburg, Urteil vom 16. 10. 2003 – 7 O 847/03, NJW 2004, 2988, GRUR 2004, 672, ZUM 2004, 580

[4] 「ネブラ・スカイディスク」『ザクセンアンハルト州立先史博物館』http://www.lda-lsa.de/en/nebra_sky_disc/

[5] ドイツ商標法13条は、商標登録出願に先んじて、氏名権、肖像権、著作権、地理的表示などの優先的権利―著作隣接権も含まれる―が他の者に存することを、商標登録の抹消事由としている。

[6] Malte Stieper: Geistiges Eigentum an Kulturgütern, GRUR 2012, 1083 [1087]

[7] BGH, Urteil vom 22. 1. 2009 – I ZR 19/07 (OLG Düsseldorf) Motezuma, GRUR 2009 942.

[8] 71条は「その著作物の利用についての排他的権利を有する」と定めているので、文言解釈上、財産的利用行為すべてを対象とすると解される。

[9]最高裁は「未発行」に該当しないことから権利の成立を否定し、解釈の余地の多い「公衆への提示」の該否判断は行っていない。脚注7)Rdnr.21。ここまで解釈が錯綜している理由は、欧州保護期間指令を受けた1995年の改正の経過にあるようだ。ドイツ法71条が1965年に立法された当時は、「最初の公衆への提示」要件が含まれていなかったので、「最初に発行」する者なら、保護を受けられた。そして、当時の立法者の念頭には、―グリム兄弟のように―寓話、民謡、民話、民族舞踊などを初めて発行した者の保護があったことや、「公衆への提示」は立証が困難であることから導入されなかったことが、立法理由書に例示されている。それが、保護期間指令の国内法化のための改正によって「公衆への提示」要件が盛り込まれてしまったことにより、当初の念頭に置かれていたこれらの対象は、(解釈の余地はあるものの)保護権の成立から外れる可能性が高まってしまっている。

-    志賀典之(RC)