🔭2025年万博は、大阪・関西で開催される「オリンピック」か?(足立 勝)

  2018年11月23日(日本時間24日未明)、フランスパリで開催されていた博覧会国際事務局(Bureau International des Expositions 以下「BIE」という)総会で、2025年の国際博覧会(万博)が大阪で開催されることが決定した。私が現在拠点を置いている大阪では、アジアで初めて万博が開催された1970年の大阪万博以降、日本で万博が一度も開催されたことがなかったかのような論調で報道されるなど[1]、大阪・関西オリンピックが開催されるかのような扱いがされている。ただ、大阪の人が如何に地元を愛しているかを述べることが本稿の目的ではなく、ここでは万博について[2]、オリンピック等の大規模イベントと比較しながら、少し考えてみたい。

  万博は、オリンピックやFIFA World Cupと比較しても何ら遜色ない大規模なイベントであり、開催期間が長期にわたることから来場客数は膨大な数字になる。
  さらに、国際的な規模であることに加えて、開催エリアの施設の建設やアクセス道路等の整備など地域の再開発、観光需要の拡大を見込んでいるものであること、さらには誘致に際して政治家の姿が見えることなど、オリンピックやFIFA World Cup招致の場合と非常に似た側面が存在する。
  また、イベント名が著名なことはもちろん、さらに博覧会は特許法30条の適用の関係もあり、知的財産法とも関連がある。

    一方で、いくつかの点で大きく異なる。
  万博がオリンピックらと一番異なる点は、国際博覧会は1928年に締約された国際博覧会条約(The 1928 Paris Convention 以下、「国際博覧会条約」という)に基づいて開催されるということである[3]。以前から述べているとおり、オリンピックやFIFA World Cupは民間イベントであり、何らかの条約に基づいて開催されているといった事実はない[4]。
  2点目は、オリンピックやFIFA World Cupの場合は、立候補都市や各国のサッカー協会が招致に関して様々な書類を提出するのに対して[5]、万博を開催するためには、その事務局であるBIEに開催を申請(立候補)し立候補書類を提出できるのは、各国政府のみであることが挙げられる。今回の大阪・関西万博のために、わが国は、2017年4月11日にBIE事務局長に対して、2025年国際博覧会の開催国に立候補する安倍首相名義の届出を提出し[6]、その後同年9月25日に「ビッド・ドシエ」とよばれる評価用の立候補文書をBIEに提出している[7]。
  なお、2025年万博のために大阪・関西万博誘致委員会(以下、「誘致委員会」という)が2017年3月に設立されているが、この委員会は立候補の書面を提出したりしているわけではなく、誘致のためのプロモーション活動を専ら行っており、その費用は大阪府、大阪市及び当該委員会の会員企業等からの分担金その他の収入で賄われている(誘致委員会規約第3条及び第15条[8])。
  3点目として、万博の開催・運営について、国際博覧会条約の規定で、政府が自ら行うか、或いは別の法人が開催・運営する場合でも政府はその履行を保証しなければならないとされていることである(国際博覧会条約第10条)。上記の2017年4月11日付け立候補届出書にも、開催するための法人の設立を想定していること、及び当該法人の義務履行について、条約10条の定めに従って保証する旨を記している。さらに、開催決定後の本年2月8日には、大阪・関西万博の準備及び運営のための「平成37年に開催される国際博覧会の準備及び運営のために必要な特別措置に関する法律案」(以下、「2025年万博特措法案」という)を閣議決定している[9]。
  国がBIEに提出したビッド・ドシエでは、開催地の整備やパビリオンの基礎施設の建設等においては国、地元の自治体及び民間資金で3等分負担し[10](ビッド・ドシエ408-410頁)、会場へのアクセスの整備費用等は地元の自治体が負担することになっている(同417頁)。一方、万博の運営費用については入場料、出展者からの会場使用料、会場での飲食[11]やグッズからのロイヤリティ収入などで賄うことになっているが(同413-417頁)、2025年万博特措法案では、運営にも税金を投入することも予定されている(第22条)。これに対して、オリンピックやFIFA World Cupでは、イベント主催者であるIOCやFIFA、それぞれの実行部隊である組織委員会が運営し、運営に税金が使用されることはない[12]。

  こうしたなか違いもあるなかで、大阪・関西万博でも、オリンピック等と同様に、アンブッシュ・マーケティングを規制しようとするのだろうかという疑問が浮かぶ[13]。
 この点、2025年万博を誘致する活動のなかで、誘致委員会は、「アンブッシュ・マーケティングとは、故意であるか否か問わず、権利者であるBIE協会・ 誘致委員会の許諾無しに2025年万博誘致に関する知的財産を使用したり、万博誘致のプロモーションを流用することを指します[14]」として、誘致ロゴマークの使用についての規制(誘致ロゴマークの無断、使用が認められていない組織/団体等の誘致ロゴマークの使用)にとどまらず[15]、2025年万博誘致を連想させる用語の使用、使用権利保持者以外のPR誌発行、誘致シンボルマークと誘致イメージの使用、 誘致ロゴマークを想起させるグラフィックの使用といった行為はすべて許されないとの周知活動を行っている[16]。

  誘致委員会の会員企業(スポンサー)に対して誘致ロゴの使用を許諾する代わりに、支援金を得るしくみにしていることからすれば、誘致委員会が挙げたこれらの行為が発生するのは確かに不都合である。
  誘致の段階でこうした懸念があるとしたら、実際に開催された場合にも、同様の懸念が生じるのではないだろうか。各国政府の出展はもちろん、企業による出展も当然考えられる。こうした出展者がいることで万博の内容・コンテンツが豊かになり、来客者数や入場料収入にも貢献することになる。そして、それぞれの出展者は、万博用パビリオンの建設費や会場使用料、人件費などのパビリオン運営費用を負担するものであり(ビッド・ドシエ426-444頁)、これら出展者の告知や配布物などには、大阪・関西万博のロゴマーク(誘致にあたって使用された誘致ロゴマークとは別のもの)の使用が許諾されることが考えられる。企業の出展実績としても、1970年大阪万博での国内出展の参加企業・団体は1040にのぼり[17]、2005年の愛・地球博、2010年の上海万博、2015年ミラノ万博でも企業の出展はあり、2025年大阪・関西万博でも20%以内での出展が想定されている(ビッド・ドシエ432頁)。さらに、2015年ミラノ万博では、グローバルパートナーやオフィシャルパートナーなどに分類したスポンサーシップ制も有していた[18]。
  過去日本で開催された博覧会では大きな問題にならなかったかもしれないが、アンブッシュ・マーケティングについて、我が国でも広く知れ渡っているようにも思われる。

  2020年東京オリンピックに向けて、アンブッシュ・マーケティング行為について、特段の法整備がないなか[19]、直ちに法律違反となるかのように、組織委員会が活動をしているのと同様に[20]、国が自ら開催を申請し運営にも直接の保証をする万博においても、同様の周知活動を行っていくのだろうか。
  そうだとしたら、この点では、2025年万博は、大阪。関西で開催される「オリンピック」ということになるのだろう[21]。
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[1]  以前は、「一般博」と「特別博」の区分がされていて、かつ開催頻度や規模等も必ずしも明確に整理がされていなかったようであるが、現在は、5年毎に開催される「World Expo」と、その間の時期に「Specialized Expo」が開催されるしくみに整理されている。
  BIEのウェブサイト(https://www.bie-paris.org)によれば、日本で過去に開催された万博のうち、1975年沖縄海洋博、1985年筑波科学博、2005年愛・地球博は「Specialized Expo」と、1990年大阪花博は、Specialized Expoでもない国際園芸博と、分類されている。すなわち、BIEに「World Expo」と認定されているのは1970年大阪万博のみであり、この点からすると大阪での論調もあながち誤りではないのかもしれない。
  ちなみに、1981年開催の神戸ポートピア博、1996年に開催案のあった東京都市博(東京フロンティア)は、BIEが認定する博覧会ではない。

[2]  日本が初めて万博に出展したのは、まだ江戸時代であった1867年のパリ万博であった。この博覧会では、和紙、漆器、日本刀など美術工芸品や農林産品に加えて、茶店で芸妓3名が遊ぶ様子が「展示」されたようである。平野繁臣『国際博覧会歴史事典』(内山工房 1999)170-171頁

[3]  BIEウェブサイト(https://www.bie-paris.org/site/en/about-the-bie/the-1928-paris-convention)に、英文のものが公開されている。
  なお、万博は、1851年にロンドンで開催されて以降かなりの頻度で開催され、そのなかには責任者や事業主体がはっきりしないものもあらわれ、それでも開催国政府が保護や承認を与えたことなどの弊害が生じていた。そのため、20世紀初め頃から条約化の動きがあり、第一世界大戦を経て、1928年に条約に至った。日本は1965年に加盟、現在170か国が加盟(BIE ウェブサイト 2019年5月2日確認)。条約化の経緯については、平野繁臣『国際博覧会歴史事典』(内山工房 1999)57-71頁も参照されたい。

[4]  オリンピックについては、開催や運営に関する条約は存在せず、唯一オリンピック・シンボルの保護に関するナイロビ条約(Nairobi Treaty on the Protection of the Olympic Symbol 1981年9月26日にケニアのナイロビで採択され、1982年9月25日に発効)は存在する。しかしながら、このナイロビ条約は、加盟国はまだ52か国であり(WIPO ウェブサイト2019年5月2日確認)、我が国含め、英国、カナダ、中国、米国、オーストラリアなど最近のオリンピック開催国も未加盟である。

[5] 立候補都市や各国サッカー協会が立候補に関する様々な書類を提出するにあたり、一定の事項にについて政府保証を求められる。なお、開催地として立候補した後に、招致委員会が作られて招致活動するのが一般的である。
   また、最近のニュースとして、日本サッカー協会は、2019年3月12日付で「FIFA女子ワールドカップ2023」の開催地として立候補するための意思表明書を、FIFAに提出している。

[6] 経済産業省ウェブサイトhttps://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170424003/20170424003.html 
  なお、2017年4月11日の立候補届け出は、同日に閣議了解がされていることも記載されている。

[7] 経済産業省ウェブサイトhttps://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170424003/20170424003.html 

[8]  誘致委員会ウェブサイトhttp://www.expo2025-osaka-japan.jp/information/ 

[9]  平成37年に開催される国際博覧会の準備及び運営のために必要な特別措置に関する法律案 経済産業省ウェブサイト(https://www.meti.go.jp/press/2018/02/20190208001/20190208001.html)

[10] 会場整備等の総費用約1250億円の3分の1にあたる420億円の民間負担分は、関西の経済界が経団連とも協力し、企業からの寄付などで集める計画とのこと(2019年4月15日日経新聞電子版記事らの報道情報)

[11] 2005年愛・地球博でも、来場客による会場にお弁当を持ち込む行為は、宗教上や健康上の理由がある場合を除いて、禁止されていた経緯があるが、会場での飲食に対してロイヤリティを徴収する関係があったものと思われる。

[12] 1984年のロスオリンピック前は、民間イベントであるオリンピックに税金が用いられ、運営赤字に対して開催都市や州が増税するなどして対処してきた歴史がある。
  2020年東京オリンピックについて、平成32年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成27年法律第33号)が制定されているが、同法には、運営に税金を投入する予定などの定めはない。
  平成25年2月8日開催東京都オリンピック・パラリンピック招致特別委員会速記録第13号でも、2020年東京オリンピックについて運営資金に都からの支出はない旨の答弁が確認できる。但し、同都議会にて、パラリンピックの運営については、政府と東京都で運営資金の半分を負担する旨の答弁がされている。

[13] アンブッシュ・マーケティング規制については、さしあたり足立勝『アンブッシュ・マーケティング規制法』(創耕舎 2016)を参照されたい。
  あわせて、当RCLIPの過去のコラムの足立勝「2020年東京オリンピック開催決定と知財法業界への新たな課題」(https://rclip.jp/column_j/20130617-2/ 2013年9月13日掲出)、及び「2020年東京オリンピック開催都市契約が改めて提起する課題」(https://rclip.jp/2017/06/22/201706column/  2017年6月22日掲出)も参照。

[14]  誘致委員会ウェブサイト(http://www.expo2025-osaka-japan.jp/sponsor/ 2019年5月3日確認)

[15]  誘致委員会の規制においては、出所表示機能を果たす態様での使用であるかどうかは問題にしていない。

[16]  誘致委員会ウェブサイト(http://www.expo2025-osaka-japan.jp/sponsor/ 2019年5月3日確認)
  このウェブサイトでは、さらに「万博誘致の機運醸成(誘致プロモーション)を公式に関与するように見せかけ、そのことにより 本誘致委員会のプロモーション活動を妨害し、万博誘致のブランドを損なわせることになります」と述べ、商標法13条の2(設定の登録前の金銭請求権等)及び著作権法112条(差止請求権)、119条1項(刑事罰)を特掲している。
  なお、誘致ロゴと呼ばれる花形のデザインは、松井一郎氏の個人名義で商標登録されている(商標登録第6027581号 2017年6月6日出願 2018年3月16日登録)。

[17] 平野繁臣『万博の歴史』(小学館 2016)121頁。 ちなみに、同書(157頁、165頁)によると、1975年の沖縄海洋博では、企業出展は、三井、三菱、住友、芙蓉などの旧財閥系に限られたが、1985年の筑波科学博では企業パビリオンは28館あったという。

[18] 2015年ミラノ万博公式マップにも、グローバルパートナーやオフィシャルパートナーの企業が一覧で掲載されている。

[19] 各国・地域における法や法理については、前掲注13)『アンブッシュ・マーケティング規制法』85-107頁及び足立勝「周知・著名商標に対するアンブッシュ・マーケティング -アンブッシュ広告を中心にー」パテント72巻4号(別冊パテント21号)(2019)135-141頁を参照されたい。

[20] 例えば、東京オリンピック・パラリンピック 競技大会組織委員会『Brand Protection Guideline』 (https://tokyo2020.org)1998年長野オリンピックの際も、組織委員会はハンドブックやチラシを作成し、防止に努めていた事実もある。

[21] 前掲注5)のとおり、2023年にはFIFA女子ワールドカップ2023が我が国で開催される可能性がある。

—- <招聘研究員 足立 勝>—-