新年、明けましておめでとうございます。
 新しい年が皆様にとりまして幸多き年となりますよう心よりお祈り申し上げます。

 今回、二回目のコラムを書かせていただきますKWON,Chihyun(コン・チヒョン)と申します。今回は、2カ月前に韓国公正取引委員会で発表された、ソフトフェアの開発委託契約に関する内容を紹介し、それに関係して思ったことを書かせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

韓国公正取引委員会:ソフトフェア下請業者(受託者)に著作権を帰属

 ソフトフェアの開発委託契約における著作権等の取り扱いは、事業者(委託者)と下請業者(受託者)間で合意されたものであれば公序良俗に反しない限り契約により決められます。しかし、実際の契約では、事業者が優越的な立場を利用し下請業者が開発したソフトフェアの著作権等を一方的に事業者側に帰属させる場合が殆どだそうです。そこで、韓国公正取引委員会は、このような不公平な慣行を排除するために、2019年11月18日から「ソフトフェア事業標準下請基本契約書」を制定・施行すると発表しました[ⅰ]。これにより、ゲーム用ソフトフェア開発構築業[ⅱ]、アニメーション制作業[ⅲ]、常用ソフトフェア供給・開発構築業、情報システム開発構築業における委託契約では、委託されたソフトフェアの著作権等の知的財産権を、原則的に、事業者ではなく下請業者に帰属させ、事業者側が開発過程で寄与した場合にのみ、その寄与の割合によって知的財産権を共有すると定めています[ⅳ]。他にも、事業者は、下請業者の破産などの特別な理由がない限り、委託内容と直接的に関わりのある (下請業者の)業務担当者の雇用(引き抜き)ができないよう規定されています。無論、譲渡してはいけないという内容は含まれていませんので、譲渡の内容を契約に入れることもできますが、少なくても、事業者が委託する立場を利用して当たり前のように著作権者になることは阻止できます。
 このような内容が規定されたとしても、契約自由の原則によって、いくらでも変則的な内容を入れられるので、当事者間の契約において大きな意味を持たないという考えもあると思います。しかし、このような規定があるだけで、当事者間の交渉の出発点が違ってきますので、法や規制がどのような基本姿勢を採っているのかは、契約の際、現実的に大きな影響を与えると思います。少し話が変わりますが、この内容を読んだとき、共同研究における特許権についても、この様に不公平な内容が除外されるよう、共有者間の取り決めについて法が提供する枠組みがあればいいなと思いました。以下では共同研究における不実施共有者の立場についてお話しします。

共有特許権における不実施共有者の不憫な立場

 近年のように、技術の高度化、複雑化、加速化の状況では、企業や企業、企業や大学・研究所等で共同研究を行い、その研究結果物を特許出願することが一般的になっており、特に、企業と大学間の産学連携における委託研究や共同研究による共有特許権の取得は年々増加しつつあります。そして、このように特許権が共有に係る場合、譲渡及びライセンス等に関して、他の共有者の同意という制約が定められています[ⅴ]。しかし、例えば、産学連携における大学や研究所のように、共有者の一方に実施能力がない場合、企業側の同意がないと持分の譲渡やライセンス許諾もできず(企業側が、大学が他の企業(おそらく共有者企業の競争企業)に持分の譲渡やライセンス許諾をすることに対して同意するとは想定できない)、共同研究の結果物に対し、一方だけが、なんら収益も得られないという不合理な状況になります。無論、同条項の制限は、任意規定ではあるので、当事者の契約によって制約規定を排除できますが、大学等の実施能力のない共有者が、契約の際、不利な立場に置かれるのは違いないと思います。このように過度に企業等の実施共有者に有利になっている現行法の問題に対し、韓国公正取引委員会がしたように、共有特許権における不実施共有者の保護を図る (契約時に不実施共有者が少し優位に立てるような) 内容を規定している国がフランスです。
 フランスでは、各共有者自身の実施および通常実施権の許諾の際、共有特許権を不実施する他の共有者に対し「公正に補償(indemniser équitablement)」、つまり「不実施補償」をすべきだという、不実施共有者に有利な内容が規定されています[ⅵ]。また、共有者一方(不実施共有者)が第三者に通常実施権の許諾及び持分譲渡をしたい場合、他の共有者(企業)の同意を必要とするのではなく、当該持分を買収する機会、つまり「先買権(droit de préemption)」の提案を義務付け、他の共有者(企業)に優先的な買収権利を与えています[ⅶ]。こうすることで、不実施共有者は、共有者の同意という縛りから解放され、共有特許権から収益をえることが当たり前になります。日本の場合だと、共同研究の契約時に上手く交渉をしなければなりませんが、当たり前なことではないので交渉の際、かなり弱い立場だといえます。もちろん、フランスの規定も任意規定なのでいくらでも除外できますし、不実施補償と言っても、それが実施料なのか、収益の配分なのか等、具体的な内容は何も規定されていませんので、それも契約によって交渉するしかありません。しかし、法が、知的財産権をめぐる契約についてどのような立場を採っているのかは、実際の契約上では大きな意味があると思います。交渉の出発点も違ってきますし、もし、契約関係において当事者の意思が不明確な場合や、欠落した場合には、意思解釈のための参考にもなります。このように、たとえ共有者間の取り決めにより特許法の定めを修正できるとしても、法が提供する枠組みとしての意義はとても重要なものなので、委託開発と同様に、共同研究における知的財産権をめぐる契約についても不公平な慣行が一般化しないよう、見直しが必要だと思います。
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

KWON,Chihyun(コン・チヒョン)(RC)

 

[ⅰ] 韓国公正取引委員会「下請分野標準契約書の制定・改正」(2019.11)http://www.ftc.go.kr/www/selectReportUserView.do?key=10&rpttype=1&report_data_no=8368 (最終閲覧2019年12月25日)

[ⅱ] 韓国公正取引委員会「ゲーム用ソフトフェア開発構築業標準下請基本契約書」(2019.11.18)http://www.ftc.go.kr/www/cop/bbs/selectBoardArticle.do?key=202&nttId=95356&bbsId=BBSMSTR_000000002319&bbsTyCode=BBST01 (最終閲覧2019年12月25日)

[ⅲ] 韓国公正取引委員会「アニメーション制作業標準下請基本契約書」(2019.11.18)http://www.ftc.go.kr/www/cop/bbs/selectBoardArticle.do?key=202&nttId=95357&bbsId=BBSMSTR_000000002319&bbsTyCode=BBST01 (最終閲覧2019年12月25日)

[ⅳ] ゲーム用ソフトフェア開発構築業標準下請基本契約書 第21条。アニメーション制作業標準下請基本契約書 第26条。

[ⅴ] 日本特許法73条、韓国特許法99条。

[ⅵ] フランス知的財産法第L613 条29 (a),(c)。

[ⅶ] フランス知的財産法第L613 条29 (c),(e)。