🔭ルブタンの「レッドソール」商標戦(王暁陽)

はじめに

 ブランド「Christian Louboutin」は、同名のフランス出身のファッションデザイナーが1992年に立ち上げた高級靴のブランドです。そのもっとも特徴的な「レッドソール」を有するハイヒールは、「一度は履いてみたい憧れの靴」などと言われており、熱狂的なコレクターを持っていることが有名です。多くのセレブリティに愛用されていることも、その人気をさらに広げる効果があり、世界中のファッション界に知られているブランドだと言われています。

   別領域の法学界において、ファッション愛好者のみならず、商標関連の方の間でも、ブランドのルブタンはよく知られています。その原因は、十年にも渡った「レッドソール」に関る色彩商標の出願争いです。

 色彩商標というのは、字面の通り、色彩のみからなる商標に指します。その色彩の数量から、単色の商標と色彩の組み合わせ商標に分かれます。さらに要素を加えると、位置を特定する色彩商標、および位置を特定しない色彩商標に分かれます。この分類方法に照らすと、本件Christian Louboutinによる出願商標は、単色、かつ、位置を特定する商標であることがわかります(後記「参考」にご参照ください。)。

 以下は、「レッドソール」色彩商標に関して、すでに登録になっているEU、拒絶査定がされた日本、および登録見込みの中国の状況を以下にて紹介いたします。

EU

 2009年12月28日、ルブタン社はベネルクス知的財産庁に対して本件レッドソール商標の出願を行いました。商標に対する説明は、靴底に用いられる赤色からなるものである(靴の輪郭は商標の一部ではなく、標章の位置を示すためのものに過ぎない)となっています。2010年1月6日、当該出願商標は登録がなされました。

日本

 ルブタン社は日本が色彩商標制度を導入した同日の2015年4月1日にレッドソール商標の出願を行いました[1]。

 翌年4月27日、特許庁は当該出願商標に対して、理由を「商標に使用される色彩は商品の特定の位置に付された色彩も含め、多くの場合、商品の魅力向上等のため選択がなされるものであって、商品の出所を表示し、自他商品を識別するための標識として認識し得ない」とされ、「本願商標は、単に商品の特徴を普通に用いられる方法で表示するにすぎない」と述べ、拒絶理由通知書を出しました。また、使用による識別力についても、証拠の不足が指摘されました。続いて2019年7月30日に、日本特許庁は本件レッドソール出願に、拒絶査定を下しました[2]。

 ルブタン社は2019年10月29日付けで拒絶査定不服審判[3]を請求しましたが、まだ審査中のため、結論が出ていません。

中国

1.出願~拒絶査定

 2010年4月15日、ルブタン氏本人は、その有する国際商標第1031242号(国際登録日:2010年2月3日)に基づいて、指定商品を第25類「女性用ハイヒール」に絞って中国にて出願を行いました。同年10月、元工商行政管理総局商標局は、「顕著な特徴に欠ける」を理由として、当該商標の出願を拒絶しました。この査定に対して、ルブタン氏は元工商行政管理総局商標評審委員会(以下は、「原商評委」と略します。)不服審判を請求しました。

2.不服審判[4]

 2015年1月22日、原商評委はルブタン氏の不服審判請求に対して、再び拒絶の決定を下しました。理由として「出願商標は、よく見られるハイヒールの図形および靴底にある単一の色彩が構成するものであり、女性用ハイヒールを指定商品にしますと、関連公衆がそれを出所表示のための標識であると認識しにくく、商標としての顕著性が欠けるものであり、また、出願人より提出された証拠は、当該出願商標が真実・有効な商業的な使用によって、商標としての顕著性を有したことを証明できないものである」と述べました。

3.一審判決[5]

 2015年2月、ルブタン氏は審決取消訴訟を提起しました。主張は以下の通りです。

(1)出願商標は色彩と位置が構成する複合商標であり、固有の顕著性を有する。

(2)「女性用ハイヒールの靴底にある赤」は大量な商業的宣伝、商標的使用によって、顕著性がさらに高められている。そのため、本件出願の保護範囲を女性用ハイヒールの靴底にある赤にするのが妥当である。

したがって、ルブタン氏は原商評委が当該商標の構成要素および請求保護範囲に対する認定に錯誤があると主張しました。

 2017年12月、北京知識産権法院は原商評委の審決を取り消す判断を下しました。判決文において、北京知識産権法院は、当該紛争商標が商品であるハイヒールの形状を表示し、局部に赤色を塗りつけたものであり、立体商標に属すべきであるため、原商評委が認定した「図形商標」ではないと判断しました。

4.二審判決[6]

 ルブタン氏と原商評委はいずれも一審判決に承服することができず、北京市高級人民法院に上訴しました。ルブタン氏は、一審判決の結果には同意しますが、判決書が述べた「出願商標が立体商標である」との認定は誤りであると主張しました。これに対して、原商評委は、原審決における出願商標が図形商標であるとした判断が妥当だと主張しました。

 2018年12月24日、二審法院は、
(1)請求商標の標章は商標としての登録可能性を有し、商標法が規定する商標として登録できる標章に属する。

(2)本件出願商標は立体商標ではなく、単色の色彩商標である。

(3)ルブタン社が商標評審および第一審、第二審で提出した関連証拠に基づいて請求商標は顕著な特徴を有する。

 として、第一審でなされた原商評委審決の取り消し決定を維持することとともに、本件出願商標が「立体商標」であるとした一審の認定を「色彩商標」であると直しました。

 本判決は中国における単色商標の登録可能性を示したものとなります。

おわりに

 日本特許庁が公開した審査基準において、「色彩を付する位置を特定したものについては、色彩のみからなる商標を構成するものは色彩のみであることから、その位置は考慮せず」、識別力を有するか否かを判断する[7]と述べています。ルブタン社は本件出願商標について請求する保護範囲を「靴底部分に付した赤色」にしていますが、この基準に照らすと、審査の際に「赤色」という要素のみが中心になるから、拒絶査定がなされたでしょう。

 しかし、文字および図形などの結合体を商標として出願する場合、全体の審査だけでなく、分離観察によってすべての要素を分析することもあります。これを本件に照らすと、「赤色」部分のみならず、その位置要素の考慮もすべきではないかと思われます。

 また、本件レッドソールを色彩商標としての登録が難しいであれば、位置商標としての出願はいかがという視点もあるかもしれません。専用権の範囲からみますと、色彩商標の場合、輪郭が異なっても保護されますが、位置商標だと輪郭が異なると専用権の範囲に含まれません。色彩を保護するという意味では、色彩商標は位置商標より権利範囲が広いものであると言われています[8]。

 日本特許庁の審査を受ける段階では、ルブタン社からは需要者認識を示すアンケートの調査結果[9]の提出がされていなかったようので、拒絶査定不服審判の結果はまだ不明といえると思われます。

 また、登録をなされたEUでも、その権利の有効性についての論争はまだ続いています。

 例えば、ルブタン氏が使用によって顕著性を有していたとの主張中の「レッドソールが素敵だから買う」というポイントについて、それは出所を示す商標ではなく、装飾のための機能であり、商標登録は無効なのではないか、という疑問があります。

 近年、色彩や音などの伝統的な商標と異なる新しいタイプの商標が現れ、商業の発展にも新たな可能性が生じてきました。それとともに、記述の仕方や、審査方法などの面において、既存法律および規定への改善も求められるようになっています。日本におけるレッドソール商標の登録状況を含めて、今後どんなタイプの商標が現れるのか、そして関連法はどうなるのかという二つの疑問を持って、引き続いてこの課題に注目していきたいと思います。

参考 : IR1031242号商標図

出所URL:
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t0302
(最終閲覧日:2020年1月21日)

 

 

 

—- <王暁陽(WANG,  Xiaoyang)(RC)>—-  

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[1] 出願番号:商願2015-29921

[2] 拒絶査定原文URL:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/h0101、最終閲覧日:2020年1月22日。出所:日本特許庁。

[3] 拒絶査定不服審判2019-014379号

[4] 工商行政管理总局商标评审委员会《关于国际注册第G1031242号图形商标驳回复审决定书》(商评字[2015]第8356号)

[5] 北京知识产权法院(2017)京73行初6817号

[6] 北京市高级人民法院(2018)京行终2631号

[7] 特許庁「商標審査基準〔改訂第11版〕平成27年4月1日適用」2014年5月14日

(URL: https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/trademark/document/new_shouhyou_faq/kaisei_kijun.pdf、最終閲覧日:2020年1月25日)

[8] 青木 博通「色彩のみからなる商標の出願と権利化―拒絶理由をどう回避するか?―」知財管理Vol.69 No.1(2019)52頁

[9] 需要者認識を示すアンケート結果が考慮事情であることは、裁判例「マグライト立体商標」(知財高判平成19年6月27日、平成18(行ケ)10555号)などにならったものですが、色彩商標の審査の際の考慮事情にも参考になれると考えられます。