2023年4月から、早稲田大学法学学術院の知的財産法担当の教員となり、併せて、知的財産法制研究所(RCLIP)のメンバーとなった。RCLIPの新年度の体制は、高林龍前所長が顧問となられ、新たに、上野達弘教授が所長となられる。そして、Rademacher教授と私が副所長になる。ただし、上野新所長は、前年度までの体制に比べて、一層共同運営的な体制にしたいとおっしゃっていることから、私としては、上野所長を支えるというより、上野所長およびRademacher副所長と一緒に、RCLIPの運営に主体的に関与していく所存である。RCLIPの活動に対し、関係各位のますますのご理解とご支援を、心からお願いしたい。

 さて、最初のご挨拶であるので、若干、私自身の自己紹介をさせていただく。

 丁度、高林前所長が、裁判官を20年近く務められた後に、早稲田大学の教員となられたように、私自身も、社会人としての人生の前半と後半で大きな方向転換をした。具体的には、大学卒業後、まず、国家公務員となり、経済産業省(2001年1月までは通商産業省)の行政官として21年を過ごした。その後、2002年春から、名古屋大学大学院法学研究科の知的財産法担当教員となり、2023年3月をもって名古屋大学を定年退職した。

 経済産業省時代は、いろいろな分野の仕事を経験したが、特に後半約10年間は、知的財産政策と通商政策の仕事に携わった。知的財産政策に関しては、知的財産政策室長というポストにつき、不正競争防止法の2001年改正、模倣品対策、インターネットに対応する知的財産制度や国際知的財産訴訟に関する検討などを担当した。また、通商政策に関して、米国・カナダの各国との二国間通商問題、およびWTOにおける新規加盟交渉や紛争処理などを担当した。とりわけ、米国との自動車や写真フィルム等をめぐる紛争、中国および台湾のWTO加盟交渉、ドーハWTO閣僚会議などの仕事が強く印象に残っている。

 行政官から大学教員に転じたのは、知的財産政策室長をしていた時に、旧知の名古屋大学の浜田道代先生(元・公正取引委員会委員、現・名古屋大学名誉教授)から、知的財産法に関する集中講義を依頼されたのが契機となった。実は、室長の業務をしながら、数時間にわたる集中講義を行う準備は大変だったが、その時に助けてくださったのが、高倉成男先生(現・明治大学名誉教授)である。高倉先生は、当時、特許庁総務部の課長をされており、本省側の私にとって、特許庁側のカウンターパートとなる立場におられた。そして、高倉先生も、ご多忙の中、京都大学で知的財産法の集中講義をされており、その講義用の資料を、惜しげもなく私に使わせてくださった。名古屋大学での集中講義は、高倉先生の資料にも助けられて(もちろん、私なりに手を加えたが)、一応、合格水準だったようで、その後、私は、名古屋大学の初代の知的財産法担当教員に迎えられることになった。私が今日まで、曲がりなりにも大学教員を務めてこられたのは、浜田先生や高倉先生のおかげである。ちなみに、上野達弘所長は、京都大学の院生時代に、高倉先生の講義を受けておられたそうである。

 名古屋大学時代のことは、思いつくまま書いていくと切りがないので、ここでは、RCLIPの今後の活動につながる可能性がある事項二つを記させていただく。第一に、海外の研究者との国際的ネットワークの構築に努めたこと、第二に、留学生教育に尽力したことである。

 第一に、名古屋大学勤務時代、幸いにして比較的大型の科研費補助金を受けることができたこともあって、海外の研究会への参加や外国人研究者の招聘に努力した。おかげで、アジア、欧州および米国の多くの研究者と知己になり、ネットワークを作ることができた。たとえば、アジア諸国の研究者が自国の主要裁判例を紹介する”Annotated Leading Cases in Major Asian Jurisdictions”のシリーズ(特許、著作権、商標の各分野ごとに出版されている)や、欧米の研究者との共同研究に基づく”Patent Remedies and Complex Products: Toward a Global Consensus” (Cambridge University Pressから出版されるとともに、オープン・アクセス版も提供されている)などは、そうした活動の成果である。

  第二に、名古屋大学の法学研究科は、かなり以前から留学生教育に取り組んでおり、たとえば英語による博士後期課程も設けられている。私は、名古屋大学在任中に、幸運にも多くの優れた留学生を受け入れることができた。指導した留学生の出身国は、東南アジアと中国を中心として、さらに、欧州、トルコ、米国、南米など多様である。彼ら・彼女らの多くは、母国に戻って、知的財産関係または何らかの専門的な職業についている。研究者になった者も多い。また、中には、外交官など、国を担う仕事についている者もいる。

 上記の国際的な人的ネットワークは、私自身にとって極めて大切なものであるが、今後、RCLIPの活動にも生かすことができればと思う。実は、私が、名古屋大学を退職するに際して、早稲田大学およびRCLIPで仕事を続けることができることを幸運だと思った主要な理由の一つは、このようなネットワークを無にしてしまうことなく、むしろ一層広げ、かつ強化できるだろうと思ったためである。もちろん、いうまでもなく、RCLIPは、従来から、我が国でもっとも進んだ国際的活動をしているが、幸い、私が構築してきたネットワークは、これまでのRCLIPの活動と重ならない部分も多いので、RCLIPと関係づけることは、我々にも、また海外の人たちにも有意義であろうと期待している。

 以上、自己宣伝が長くなってしまった。今後は、具体的な活動で、貢献できればと思う。読者の皆様に、新体制となったRCLIPへのご支援を改めてお願いしつつ、私の最初のご挨拶を閉じさせていただく。

鈴木將文(早稲田大学法学学術院教授)