おみくじの言う通り

 私は、昨年末RCLIP分室メンバーで行った成田山新勝寺日帰り温泉ツアーにおいて、新勝寺のおみくじでめでたく吉を引いた。前年のツアーでは、凶を引いたのだから、驚くべき進歩である。さて、そこには、「冬が終わり春を迎えるような運勢」だが、「自分の短所を素直に反省することで開運に向かう」と書かれていた。そこで私は反省し今年の目標を立てた。
 一.特許法を勉強する。これは、既に致し方ない状況にある。非常勤とはいえ、大学で知的財産権を教える立場にありながら、好きな著作権のことばかり話していてはいけないことは明らかである。おみくじが当たったのか、今年から産業財産権関連科目も担当することになり、今、汗水たらしてレジュメを作っている。よし、これは、きっと吉だ。
 二.ドイツ語を勉強する。これまで、英語以外は、ラテン系の言葉にしか興味がなかった。学部でドイツ語を第三外国語として取ったものの、前置詞(らしい)「でる・です・でむ・でん」で挫折している。しかし、自分を鼓舞するためにも「今年はドイツ語を頑張ります」などと年賀状に書き散らかして新年を迎えた。現在、毎朝ラジオ講座をベッドで聞きながら、寝言の様にリピートする。「いっひ・れーぜ・ろまーね(I read novelsの意)」肯定文は2番目がいつも動詞だということを理解。「ヴぁす・だんくすと・どぅ(What do you think?)」疑問詞がついても2番目である。「はすと・どぅ・つぁいと(Do you have time?)」疑問文はひっくり返せばいいらしい。語学に近道はない。
 そのような私に、先生方はいつも暖かい手を差し伸べてくださる。高林龍先生が「律儀な改訂重なる信頼」でおなじみの『標準特許法第5版』をお出しになったのは、まさか特許法を勉強していないわけはないねと念を、いや、背中を押してくださっているかのようである。斎藤博先生はドイツ語を本気で勉強するならば、相談にいらっしゃいとまでおっしゃって下さる。勿論「いっひ・れーぜ・ろまーね」の段階では、お時間を取ってくださいなどと言えたものではない。
 本日も、唸りながらレジュメとドイツ語と格闘していると、私の好きな追及権のニュースが飛び込んできた。英国では、追及権の美術品市場への影響に関するレポート *1 が発行され、米国では、提出されていた追及権法案 *2 は、法律にはならなかった。すなわち、2015年1月3日に第113回連邦議会第二セッションの終了に伴い、それまでに大統領が署名に至らなかった法案はすべて暗礁に乗り上げるという。また、カリフォルニア州法追及権条項が合衆国憲法の州際通商条項に抵触するため、無効であるとした裁判の控訴審がen bankとなることから、一審が覆される可能性も出てきている。これは、楽しい。これまでに通商条項に関して出された最高裁判決も、二酸化炭素の規制値 *3 から、ガチョウのフォアグラの販売 *4 まである。そうなるとまた論文を書くのが楽しみになる。
 おみくじの学問のところをみると、「短所を克服できれば見通しは明るい」という。もしや、反省したから楽しいことがでてきたのかもしれない。おみくじは続く。「(素直に反省する)その心を忘れると、かえって不幸となるので、謙虚に信仰を深めること。」
 今年はおみくじの言う通りにしようと思う。

(知的財産法制研究所 招聘研究員 小川 明子)

*1 British Art Market Foundation, British Art Market in 2014
*2 American Royalties, Too act
*3 Rocky Mountain Farmers Union v. Corey (9th cir. 2013)
*4 Association des eleveurs de canards et d’oies du quebec, et al., v. Kamala D. Harris (no. 13-1313, Supreme Court of the US)