知的財産法制研究センター(RCLIP)は,GCOEに先立つ21世紀COEのプロジェクト開始時から継続して10年間,アジアおよび欧州の知的財産判例英訳データベース構築を始めとする知的財産法制の研究を行ってきた。データベースは構築することが目的ではなく,データの収集と要約の過程で,各国・地域の裁判官などの実務家や研究者と研究ネットワークを構築して,これらのデータに表れている知的財産法の執行に係わる問題点について研究を重ね,理想的な知的財産法制の確立を目指すことを最終目的としている。そして,10年間に及ぶ私達の活動はこれ対して様々な方々からのご協力も頂戴する機会を得ることに繋がり,GCOE資金以外も活用して,毎週といってもよいほどの頻度で広く知的財産を対象とした公開のシンポジウム・セミナーを開催してきたし,年4回日英二カ国語でRCLIPニュースレターを発行して,活動内容を広く世界に発信もしてきた。

 活動の初年である2003年12月16日にはこけら落しの企画として,東京地裁の101号大合議法廷を使用して,午前中は東京地裁の現職裁判官3名が裁判官役となり,原告・被告代理人は日本の著名事務所の弁護士が担当して,仮想事例・記録を用いてシナリオなしで模擬裁判を実施した。そして午後には,米国連邦裁判所の現職判事が裁判官役となり,原告・被告代理人も米国から来日した著名事務所の弁護士が担当して陪審制度を導入した模擬裁判を,日本版と同様の仮想事例・記録を用いてシナリオなしで実施した。事案は医療器具の発明を対象として,米国の特許権者が日本の医療器具メーカーを訴えた特許権侵害訴訟であるが,午前中の米国版訴訟では均等侵害が認められて米国特許権者が勝訴し,午後の日本版訴訟では出願経過禁反言により均等侵害が不成立されて原告敗訴となった(*1)。当日は,大合議法廷に入りきらない傍聴者400名ほどを債権者集会場に収容して,法廷内の模様をTVカメラを用いてスクリーンに映し出した。このような企画が最高裁判所や東京地裁の多くの方々のご協力を得て官学一体で実施できたことは,今,思い返してみても画期的なことであった。また,その後の10年間で,米国では出願経過禁反言の適用場面の増加により「均等論は死んだ」といわれる状況が生じていること,逆にわが国では近時「均等論のルネサンス」として知財高裁で均等侵害を認める判決が散見されるに至っていることに思いを致すならば,両国の知財をめぐる動きの交錯には,感慨深い以上のものがある。

 そして,活動最終年である10年後の2013年1月26日には各国・地域の多数の協力者が成果を持ち寄って集い,私達との協力関係の将来にわたる維持・発展を確認しあうコンファレンスを開催した(*2)。

 私達のこの21世紀COEの5年間と,GCOEの5年間の活動内容やその成果は,到底わずかな紙幅で明らかにすることはできない。特に判例データベースは,アジア(中国,韓国,ベトナム,インドネシア,タイ,台湾,インド),欧州(ドイツ,フランス,イタリア,スペイン,英国)ばかりか今年にはブラジルとロシアの知財判例も加わり,無料で検索して閲覧することのできるデータベースとして,世界的に注目されるものに育っている。

 しかし,時の流れは非情でもあり,10年間続いたプロジェクトも,景気後退の世情が故に後継企画はなく,研究費が途絶するときが来てしまった。GCOE採択後に開設したRCLIPのオフィスも賃貸期間の満了により閉鎖することになり,先日,引っ越しを終了し,什器備品のなくなった空き室に佇むならば,寂寥感が漂っていた。

 とはいえ,仮にこれまで同様の研究費は頂戴できないにしても,10年かけて構築してきたデータベースを死に体にしてしまうことや,これまで構築してきた人的ネットワークを遮断してしまうことは絶対にあってはならないことである。現段階では未だ模索中としかいえないが,RCLIPの活動はどのような形であれ4月以降も継続して行きたい。その第一歩として,大学当局からしばらくの間ではあるが,活動拠点となるオフィスのご提供を頂けることになった。そして,4月以降もデータベースを見ることのできるWeb頁を継続し,かつ4月23日には新生RCLIPとしての初回(通算34回)研究会を上野達弘先生をお迎えして開催することにした。

 これからしばらくは揺籃期になるであろうが,何とか揺籃期を経て華々しく新装開店ができる日が来ることを期待して,旧RCLIP最後のコラムとしたい。

(センター長 高林 龍)