奮闘する50歳の新任教員

 2014年4月1日に東洋大学の専任教員になってから2か月余りが経過した。50歳の新任教員として悪戦苦闘する毎日であるが、それでも徐々に新しい環境に慣れてきた。当初は他大学に比べて学生の私語が多いと感じていたが、今では授業中に学生を注意することもほとんどなくなった。ゼミ運営も軌道に乗ってきたようで、着任時には判例の読み方や判例評釈の書き方も分からなかったゼミ生が、今では判決の射程をきちんと書けるまでになっている。
 東洋大学に入って驚いたのは、創設者である井上円了の建学理念が教育内容にかなり活かされているということだ。東洋大学では、建学の理念として「自分の哲学を持つ」「本質に迫って深く考える」「主体的に社会の課題に取り組む」を掲げているが、この建学理念を受けて、法学部でも学生が積極的・主体的に物事を考えるために授業を展開するように心がけている。
 また、東洋大学では、円了の教えに従い、「余資なく、優暇なき者」(資産や時間に余裕がない人々)のために開かれた大学を目指しており、日本の大学で唯一、都心キャンパスに設置した主要学部にイブニング・コース(2部)を設置している。他大学が夜間学部を閉鎖する中、21世紀に入っても新規設置を続けており、教育格差の是正に貢献している。
 私もイブニング・コースの授業を2クラス(法学基礎演習・知的財産権法A)担当しているが、そこではなかなか興味深い現象を見ることができる。知的財産法の授業では、毎回約80人の学生が出席しているが、前の方の席を30代・40代の社会人学生が陣取るのである。そして、真剣な眼差しで、私の講義を一言も聞き逃すまいとノートを取るのである。この数名ではあるが、熱意溢れる社会人学生の態度は、面白いようにほかの学生に伝播する。おかげで今では、ほとんどの学生が真剣な面持ちで授業を受けるようになった。
 思えば13年前に早稲田大学大学院に社会人学生として入学し、20代の学生に交じって勉強を始めたとき、私は彼らと同じ立場にあった。当時37歳の私は、法学の知識が仕事に必要であったという事情があったにせよ、知的好奇心が旺盛であった。もちろん、自腹で授業料を払っているので、「元を取らねば」という狭い了見もあったが、それでも自分の知的好奇心を満たすために、仕事先から電車に飛び乗って大学に通っていたことを覚えている。
 現在、早稲田大学大学院の法学研究科では、私が通っていた頃よりも社会人学生がかなり減少しているようである。東洋大学のイブニング・コースでも社会人学生の割合はまだまだ少数である。これから少子高齢化がますます進む中で、知的好奇心に溢れた社会人を大学に戻すことは、大学教員に課せられた大きな課題だと思う。アメリカの大学のように、キャンパスに社会人学生が普通に見られるような社会を作ることに、少しでも貢献できたらと思う今日この頃である。

(RC 安藤 和宏)