はじめまして、コラムを初めて担当します、法学研究科修士2年の末宗達行です。
 今年も残すところあと一月ほどとなり、年の瀬が近づいてまいりました。今年の年末年始は(泣きながら)必死に修士論文に取り組んでいるのではないかと、一抹の危惧の念を抱いている次第です。
 ところで、年末年始はお家でテレビを見てのんびり過ごされる方も多いのではと思います。年始の番組と言えば、箱根駅伝の中継などありますが、漫才などのお笑い番組もまた多いように思います。特番だからか、通常の番組よりも多くの芸人さんが出てきて、特に若手で最近活躍している(ないしは、活躍しそうな)芸人さんをよく目にします。ここでふと、ある考えが頭をよぎりました。

 「もしある芸人のネタを他の芸人がパクって、それでブレイクした場合、もともとネタを考えた芸人さんは知的財産法で何らかの対処できないのだろうか」

 こうした考えを思いついたのは、僕が初めてではないようでして、ネットでちらと検索しただけでもいくつか見つかります *1 。とはいえ、頭の体操、仮想事例であろう、と思っていたのですが、似たようなことで話題になった事例があったようで、中国国営放送で放送された番組中で中国の人気コメディアンにより演じられたコントがお笑いコンビ「アンジャッシュ」のネタに似ているとして中国の視聴者に指摘されたというものです *2 。ただ、記事をよく見てみると、元ネタが5分のところを12分で演じられていてオリジナルの話が加わっていたり、本人らが真似されて光栄であるなど述べていたり *3 、といった要素があることには注意しなければなりません。
 もう少し調べてみると、英語版のWikipediaに「Joke Theft」の項 *4 があることに気がつきました。それによれば、他人により作られたお笑いのネタを作成者の同意なく演じて、それにより評価を獲得してしまう行為のことのようです *5 (これまでの歴史や事例がかなり載っているようですので、ご興味のある方はぜひご一読ください)。
 また、BBCでも「Who, What, Why: Can a joke be copyrighted?」という記事 *6 があり、テレビタレント(俳優もしているようですが)のキース・チェグウィン(Keith Chegwin)が、Twitterに他人のネタを投稿して自分のものだと詐称したことで非難されたことが紹介され、ソリシターの方の著作権侵害に関してのコメントも載っています。さらに、2004年にコメディアンのジミー・カー(Jimmy Carr)が自分のものと類似したジョークを使用したとして、同じくコメディアンのジム・デイヴィッドソン(Jim Davidson)に対して警告状を送付したことも紹介されています *7
 印象的だったのは、「[Jimmy Carrのギャグ]はくだらないものに聞こえるかもしれないが、しかし、コメディアンは、聴衆を笑わせることで生計を立てており、[ネタの剽窃行為]は全くもって笑いごとではない、と訴えている。 *8 」という一文です(なお、[ ]内は筆者。以下同じ)。近年では、下積み期間が10年になってもおかしくないお笑いの世界で、バイトなどを掛け持ちしながらネタ作りを懸命に行っている芸人さんたちにとっては、ネタをパクられるというのは許し難い行為でしょうし、確かに生計を脅かすことになりかねません
 それでは、今の知的財産法制では、他の芸人さんにお笑いのネタをパクられた場合の保護はどうなるのでしょうか。芸人さんは実演家でしょうから、著作隣接権の中の実演家の権利で保護するのはどうでしょうか。関連しそうなのは、著作権法91条の録音・録画権かと思ったのですが、「実演家の実演そのものを録音・録画する権利であるから, 例えばある歌手の物真似は録音・録画に該当せず, 実演家の隣接権侵害にはならない *9 」とされていますから、難しそうです。
 著作権ではどうでしょうか。言語の著作物は「文章の形をとる必要はなく, 口述でもよ[い] *10 」とされおり、「落語や漫才など口頭で無形的に表現されるものも含まれる *11 」とされています。漫才やコントの場合には、著作権の保護が及ぶ可能性はありそうです。しかし、一発ギャグはどうでしょうか。一発ギャグとはいえ、その長さは、ダンディ坂野さんの「ゲッツ」のように一言のものから、比較的長いものまで、多岐にわたりますが、極めて短い文章の場合にあたりそうですから、創作性が否定されたり、創作性があったとしても類似性の範囲は狭くなったり、ということになりそうです *12
 著作権では保護が難しそうな一発ギャグですが、音の商標として登録が可能かもしれませ *13 。ただ、権利行使の場面で、この場合の商標的使用とは何かが問題になる気がします。
 他には、不正競争防止法2条1項1号での保護の可能性もあるかもしれません(現に、イギリスでは、人格的利益を不競法2条1項1号と類似のPassing offという不法行為類型で一部保護しているようです *14 )。
 でも、色々考えたところで、実際に訴訟は起きていないわけです(もちろん泣き寝入りの場合があるのかもしれませんが)。なぜなのでしょうか。「お互いのネタを盗んではいけないという芸人同士の『紳士協定』 *15 」の存在ゆえかもしれませんし、そもそも芸というのが先人たちの作り上げたものの上に成り立っているという意識ゆえなのかもしれません。歌舞伎の世界ですが、十八代目 中村 勘三郎さんは「古典をしっかり学んで自分の形を作れ。19や20の未熟者が土台もないのに新しいことをやるな、と。私も自分の息子たちには新しい事よりまず古い芝居を稽古して欲しい。『形を持つ人が、形を破るのが型破り。形がないのに破れば形無し』。かつて無着成恭さんがそう言っていました」と述べていま *16
 確かにそうした世界においては、差止や損害賠償といった制裁は強すぎるのかもしれません。芸人同士の紳士協定の存在という側面からは、当該分野における自律的な機能を参酌する必要がありそうですし、また、先人の作り上げたものの上に成り立つとはいいつつも同世代の人の作った芸をパクるのは正当化しがたいところですが、差止といった制裁が強いのであれば報酬を請求するという形もまたありそうな気もします。そうすると、意外にも、現在の知的財産法制のあり方を問うトピックを見渡しやすいテーマなのかもしれません。
 ともあれ、こんな小難しいことを考えながらネタを鑑賞しても、面白くも何ともありませんね。皆さま、風邪など召されませぬよう、(今年最後のコラムになるやもしれませんので)良い年末年始をお過ごしくださいませ。

(RC 末宗 達行)

*1 例えば、Yahoo! Japan知恵袋では、2012年5月12日の投稿で「ギャグやコントに著作権はありますか?例えば、あるお笑い芸人のネタをパクって、y…」(2014年11月24日確認)というタイトルの質問があった。

*2 スポニチHP「これを機に中国進出?アンジャッシュ ネタ“パクられた”(2012年1月30日 06:00)」((2014年11月24日確認)

*3 ORICON STYLE「アンジャッシュ・児嶋、ネタのパクリ疑惑に寛容コメント『光栄なくらい』(2012年2月5日 14:16)」(2014年11月24日確認)

*4 Wikipedia, “Joke Theft” (2014年11月25日確認)

*5 Ibid.

*6 BBC NEWS MAGAZINE, “Who, What, Why: Can a joke be copyrighted? (22 July 2010 Last updated at 12:15)” (2014年11月25日確認)

*7 Ibid.

*8 Ibid.

*9 中山信弘『著作権法』(有斐閣、第二版、2014)547-548頁

*10 前掲注9・中山 85頁

*11 島並良・上野達弘・横山久芳『著作権法入門』(有斐閣、2009)35頁

*12 前掲注9・中山72-74頁及び前掲注11・島並ら32頁をそれぞれ参照。

*13 産経WEST HP「“一発ギャグ”が知財になるかも…特許庁が「音」の商標登録の審査基準固める 知財大国「米国」の基準と差別化で盗用防止へ(2014年7月20日 02:00)」(2014年11月25日確認)

*14 どうやらイギリスではパブリシティの権利を入れていないようです。パブリシティ権のような新たな権利の権利範囲の確定は判例法ではなく立法によるべきであるということや、権利の存続期間についても考慮しなければならないことなどを一因として、イギリスの裁判官はパブリシティ権の導入に積極的ではないようです。(Cornish, W. R., Llewelyn, D., and Aplin, T., Intellectual Property: Patents, Copyright, Trade Marks and Allied Rights, 8th edn (London: Sweet & Maxwell, 2013), at 676, 677)

*15 Supra note 6

*16 朝日新聞・朝日求人ウェブ「仕事力 「おさまってたまるか」 中村勘三郎が語る仕事―1」(2014年11月25日確認)