「パブリシティ権」といえば、2012年の「ピンク・レディーdeダイエット事件上告審(最一小判平24 ・2 ・2 民集66・2・89*1)がまだ記憶に新しいが、最近韓国においてパブリシティ権に関する立法の動きがあるので、以下で紹介する。
 韓国においても日本と同様、パブリシティ権に関する明文規定はないが、人の氏名・肖像等を商業的に利用できる排他的権利であると解されている。芸能・スポーツや広告産業が成長するにつれ、有名人の氏名や肖像を広告に無断利用するなど関連紛争が多発している。
 実務においてはパブリシティ権侵害を理由とする広告モデル料相当の損害賠償がしばし主張されるが、まだ大法院判決はなく、下級審ではパブリシティ権を認定する判決と否定する判決に分かれている。2012.10.9から2014.7.10までに宣告されたパブリシティ権侵害が争われた33件の下級審判決を分析した研究によると、パブリシティ権そのものを認めた判決は16件、否定した判決は17件であり*2、パブリシティ権に対する韓国裁判所の態度は分かれていることがわかる。
 韓国においてはパブリシティ権を立法化しようという試みもあり、今まで何度も議員発議があった。例えば、2005年と2009年に発議された著作権法改正案は、著作権法の中に「肖像財産権」条項を新設してパブリシティ権を財産権として認める内容であったが、どちらも国会の会期満了で廃棄された。2012年に発議された著作権法改正案は、著作者および実演家に限って、肖像や氏名等その特徴的要素が現れているものを著作物に準じて保護する内容の「肖像使用権」導入を提案していた。また2013年に発議された民法一部改正案は不法行為に人格権を明文化し、パブリシティ権を人格権の一種として保護する内容であった。これらの法案は既存の法律にパブリシティ権を追加する形をとっており、その法的性質に関しては、財産権と捉えたり、人格権と捉えたりと、様々な立場であった。
 ところで2015. 1. 13に議員ら22人が共同発議した「人格表示権保護および利用に関する法律案(議案第1913653号*3)」は、パブリシティに関する独立の法律を立法しようというところで、今までの試みと異なるといえる。
 本法案は、「個人の氏名・肖像等の人格表示に関する個人の権利を保護し、その利用に関する事項を規定することで、文化および関連産業の向上発展に寄与する」ことを立法目的とする(案1条)。「人格表示」とは、「個人の氏名・肖像・声とそれに類似するもので、その人の特徴的要素が現れているもの」と定義し、「人格表示権」は「人格表示を商業的に使用できる権利」と定義している(案2条1号、2号)。2人以上で構成された団体の人格表示権は構成員全体の合意により行使するとし(案7条)、保護期間は人格表示権者の死亡後30年で終了し(案8条)、相続や譲渡もできる(案9条、10条)。人格を毀損する利用を制限し(案13条)、時事報道での利用など適用除外(案15条)や公正利用(案16条)規定も設けている。また、損害賠償の請求、損害額の認定、精神的損害賠償など、侵害に対する救済を規定している(案17条~22条)。
 上記法律案は、概ね著作権法の枠組みを借用しながらも、パブリシティ権を「人格表示権」とし、その財産権的性格を明確に宣言したところに特徴がある。ただし、人格の主体から人格表示権を譲り受けた継承人(多くの場合は芸能事務所やマネジメント会社になると考えられる)が、第三者に人格表示権の利用を許諾でき(案11条)、承継人も第三者に侵害差止や損害賠償を請求できる(案17条,18条)としているところは、有名人の人格表示を活用する芸能・スポーツ・広告などの関連産業界のニーズに合わせた法案であると思われる。
 しかし、パブリイティを人格権に根ざす権利であると理解する立場からは、人格主体と不可分の人格表示を第三者にまで流通できるという本法案に反対するとも思われ、またそれ以外にも、法体系整合性や立法技術的な部分で議論される余地が多くある法案であると思われる。
 韓国においてはパブリシティ権の法的性質や侵害判断基等に関して学説がまとまっておらず、裁判例も一貫しないという状況を考えると、このような法律を制定することには慎重になるべきだと思われる。パブリシティ権に関するこれからのさらなる議論や研究が期待されるところである。

(RC 張 睿暎)

*1 本件最高裁判決の評釈等として、田村善之「パブリシティ権侵害の要件論考察―ピンク・レディー事件最高裁判決の意義」法律時報84 巻4 号(2012 年)1 頁以下、内藤篤「『残念な判決』としてのピンク・レディー最高裁判決」NBL976 号(2012 年)1 頁以下、小泉直樹「ピンク・レディー事件上告審」ジュリスト1442 号6 頁以下、上野達弘「パブリシティ権 ―ピンク・レディー事件―」新・判例解説Watch15号(2014年)273頁がある。
*2 イ・ヨンミン「パブリシティ権の保護と制限− 2015知識財産とパブリシティ権討論文」韓国知識財産研究院『2015知識財産政策フォーラム』 (2015.3.10) 1頁
*3 大韓民国政治情報(議案情報)http://pokr.kr/bill/1913653/text