法務部員になった私の心得

 後数か月、また卒業の時期を迎える。今までと全く異なる社会に入るため、社会人になろうとする皆さんは、きっと不安であろう。私は、2013年4月に27年間の学生生活を卒業して、電機メーカーに就職し、法務部員として働き出した。この仕事を行い、もはや2年半を経ったが、振り返ってみたら、収穫が大きい。そこで、ぜひこの場を借りて、卒業を迎える皆さんに、私の心得を簡単にシェアさせていただきたい。

 まずは、実務と学問研究との間には、高い共通性があることをご理解していただきたい。私は、入社した当初、33歳という歳の割に、それまでにずっと学校で勉強していて実務経験が殆んどなかったため、本当に仕事がうまくやっていけるかと不安を抱えて、夜に眠れない日々が続いた。ところで、仕事をやっていくと、意外に早く仕事を馴染むことができたと思う。これは、上司や先輩たちのご指導のお蔭でもあるが、長年学校での勉強を通じて磨いた能力とも関係があると考えている。
 私の仕事内容は、主に契約書の作成・審査、トラブル案件の対応及びプロジェクトに関する法務サポートといった企業法務業務である。この仕事を従事する以上、自社のリスクの最小限、利益の最大化を図らなければならないので、かかる問題に関する法律条文や判例を正確に理解する必要がある。そのために、参考書、判例評釈等の法文献を収集したり、集まってきた法文献を整理して、法律の趣旨や判例の射程を分析したりするという作業が必要である。この過程は、学校で論文又はレポートを着手する前の作業と同じであろう。
 そのうえ、当該分析の結果に基づき、かかる問題の対策を立案する。このときに、自分の案が妥当であることについて、社内関係者及び契約交渉の相手に納得してもらうために、論理的な思考に基づく説得力が必要である。その説明内容は、論文の論証過程を彷彿させる。
 なお、上記の能力は、おそらく法務の仕事だけではなく、他の仕事にとっても同様に重要であると思う。ぜひ在学中の皆さんは、卒業を待たずに、今のうちに指導教授の下でしっかり訓練を受けて、そのような能力を身に着けるように意識していただきたい。

 次に、実務家にも学者精神が必要であることをご認識していただきたい。自分の指導教授の姿を見ると、分かると思うが、「学者」たちは、常に幅広く関心を持ち、色々な問題について論理的に深く思考を行っている。実は、サラーリマンにも、プロフェッショナルとアマチュアに分類できるが、プロのサラ―リマンは、学者と同様に、常に勉強に熱心で、自分が担当している分野の知識を積極的に研究している。彼らはその分野の専門家であり、会社を支えている。そのような方たちは、学者と同様に尊敬されるべきだと思う。
 したがって、勉強は、学校を卒業したら終わるものではない。どんな仕事をやろうとしても、学者精神が必要である。皆さんは、在学中の時間を利用して、自分の指導教授に学者精神を見習っておいた方がよいと考える。

 最後には、プラス思考という習慣を身に着けることを勧める。私が、入社研修の時に、初めて「プラス思考」という言葉を聞いた。すなわち、物事を肯定的な方向に捉えるという考え方である。例えば、ある発表を行ったところ、上司に怒られ、色々なご指導された。この時に、「私また失敗した」、「何でいつも私を怒るか」と考えてはいけない。このようなことがあったら、「上司の怒りや指摘は自分を育つためだ」と考えた方が良い。もっとも、期待もしない人に対して、上司が怒らないであろう。
 他方、マイナス思考をしてしまうと、人間関係にも健康にも問題が生じるおそれがある。私が、入社後に、入社研修で教われた「プラス思考」は如何に大切なものであるかをよく理解できたので、ここで皆さんに共有したいと思う。

 上記、沢山述べたが、実は、私は、「学者」型のサラーリマンを目指して就業中である。これから、ぜひ皆さんと一緒に頑張っていきたい。
 さて、来週は、担当しているプロジェクトのために、日本会社法を勉強しなければならないし、中国でのトラブル案件のために、関係資料を収集・分析して、法務意見を述べなければならないので、また充実な一週間になりそうだ。今回も上司に怒られず、褒めていただきたいな。

(RC 石 飛)