早稲田大学・北海道大学グローバルCOEジョイント著作権シンポジウム
【日時】2008年11月29日 13:00~17:30

【場所】早稲田大学22号館202教室

パネル1:著作権保護の将来像
司会・高林龍(早稲田大学大学院法務研究科教授)
パネル1では、「著作権保護の将来像」を対象として、パネリストの報告と質疑応答が行われた。このテーマは北海道大学GCOEのテーマとする法政策学と早稲田大学のGCOEのテーマとする法制研究の両面から検討の対象となりうるということで選ばれたものである。
はじめに、田村善之教授から「著作権をめぐる法と政策」と題し、デジタル化時代を迎えて、著作権をどのような観点から考えるべきなのかということについて報告がなされた。田村教授は、①著作権の正当化根拠、②著作権に関する政策形成過程への着目、③技術的・社会的環境の変遷に合わせた著作権制度の変化の3つの観点を強調した。
①の観点に関しては、自然権論と功利主義(インセンティブ論)という大きな分類を示した。自然権論については、理論的な観点から限界があることを指摘したうえで、知的財産権を正当化するには自然権論だけでは足りないとし、社会全体の厚生(効率性)に依拠した功利主義的な説明(インセンティヴ論)が必要となると説いた。②の観点は、功利主義的な議論をする場合には、政策形成過程にも目を向けるべきであるという観点である。その根拠は、特定の制度を導入することによる厚生の改善は、結局のところ、検証困難である場合が少なくないことによる。そのため、田村教授は、「自然権論」対「功利主義理論」における「正当性」に加えて、政策形成過程というプロセスにおける「正統性」とを合わせて議論をせざるを得ないとされた。もっとも、公共選択論からよく説明できるように、政策形成の過程では、組織化されやすい利益は反映されやすく、組織化されにくい利益は反映されにくいという構造的な問題があるうえに、その性質上、有体物に関する権利と異なり、無限定に拡大しうるという問題もある。そうした問題への対応として、田村教授は、①政策形成過程のガバナンス構造の変化の必要性、②司法による権利の制限の期待という点に言及され、詳しく解説された。
③の観点については、著作権法の第三の波という考え方について触れながら解説された。
これらの観点を基礎として、デジタル時代の著作権のあり方について、クリエイティヴ・コモンズの意義などにも触れながら、デフォルトルールの変更、たとえば、パブリックドメインやクリエイティヴ・コモンズをデフォルトルールにしたり、一定の登録制度を導入するといった変更も想定されることについて、条約との関係にも言及しながら示唆された。
つぎに泉克幸教授(徳島大学)から、「著作権制度と競争政策―著作権市場の発展とともに」と題して、著作権市場が拡大し発展するにしたがって、著作権法の解釈および制度設計に競争政策観点が必要となるという点について報告がなされた。著作権法と競争政策(独占禁止法)に関する議論について、従来の状況から現在の状況への変化に言及しつつ、整理がなされた。とくに独占禁止法21条の解釈として、最近の最有力説が、趣旨逸脱説であることについて説明された。この説は、知的財産権の趣旨を逸脱するような場合には、たとえ形式的には権利の行使と見られるような行為であっても、21条にいう権利の行使と認められる行為ではなく独禁法が適用されるという考え方である。こうした説明の上で、競争政策に関する具体的なトピックスとして、著作物の再販制度、著作権等の集中管理団体の問題、著作権の関連市場の変化について取り上げられた。著作権の関連市場の変化というのは、いままで自由競争とは対立するような閉鎖的な制度があった分野にも、デジタル技術の発達とネットワーク環境の整備、著作物の融合などが進んだ結果、著作権市場が浮き彫りになり、市場の基本ルールである競争が大きくクローズアップされてくることになってきたという現象である。また、最近の事例として、ソニー・ミュージックエンタテインメント事件(審判審決2008年7月14日)、第一興商事件(2003年12月5日審判開始決定)、公取委のJASRACに対する立ち入り調査(2008年4月23日)が取り上げられ、解説がなされた。
最後に、従来あまり関係がないと思われていた著作権の分野に対しても、今後は独禁法が適用され、あるいは競争政策を導入する場面が増加するであろうということを改めて確認したうえで、その背景について2つの点を指摘された。第一は、規制緩和、規制廃止のために、これまで規制によって保護されていた事業分野や事業種に競争原理が導入されたこと、第二に、従来、基本的には業界保護法であったいわゆる事業法がその性格を変え、競争法としての性格を持ち始めたことである。そのうえで、著作権の分野に競争政策的な観点を導入することが重要となる場面として、リバースエンジニアリングの場面、そして放送事業者等の著作権法上の位置づけがあることが示された。
野口祐子弁護士からは「フェアユースについて考える-米国を参考に」と題する報告がなされた。日本の現状について、現行法における権利制限規定の状況と裁判例におけるフェアユースの否定的な見方について触れた上で、近時のフェアユース導入に関する議論について、必要性に関する議論と、許容生に関する議論とに分けて説明がなされた。
米国のフェアユースについて、その導入の経緯を解説した上で、米国著作権法107条の4要件についての論点について指摘された。第一要件(利用の目的と性質)については、ライセンスを求めたのに断られたという事実が影響するかどうかという点が特に議論されたことについて言及された。また、第四要件(利用された著作物の潜在的市場や価値に与える影響)については、ここで権利者の側が失う潜在的市場の価値というのは、得べかりしライセンス料ではないことに注意が喚起された。そのように理解した場合、ほぼ全ての場合がフェアユースではなくなってしまうからである。広く受け入れられている考え方は、利用が広く普及した場合に権利者の作品の潜在的市場が受ける影響のことを意味しているという考え方であることが、Campbell事件に言及しながら、指摘された。
米国フェアユースの長所として、事案ごとの個別な判断が可能であること、時代の変遷に柔軟に対応できることがあるとするが、他方で、その短所として、予測可能性が低いという点があるとした。日本で導入する場合には、既存の例外規定に対して一般条項をどのように位置付けるべきなのか、また日米の裁判官の気質の違いについて配慮すべき点があることを示唆した。フェアユースを導入するということの意味は、権利の例外を判断する権限を立法から司法へ移譲することを意味することも示唆している。
フェアユースの導入を検討する場合、既存の例外規定との関係では、新しいカテゴリーの利用形態が生じた場合の問題を救済するための規定だとすると、既存の例外規定に該当しないが許容されるべきものを認めるのでなければ、あまり意味がなくなることを指摘した。また、裁判例で同じ類型のフェアユースが出た場合、立法によって明確化していくということも可能性として示唆するとともに、米国では裁判官がフェアユースを認める場合でも権利者に対して補償金を支払うという判断をするとするべきではないかという議論があることについても言及がなされた。
安藤和宏特任教授(北海道大学)からは、「デジタル化時代における著作隣接権制度に関する一考察~ミュージックサンプリングを素材にして」と題する報告がなされた。サンプリングとは、サウンドレコーディングのごく一部を取って、新しいレコーディングの一部としてその部分をデジタル処理によって利用するプロセスである。Bridgeport事件などに触れながら、サンプリングの問題に対して、実質的類似性やデミニミス(de minimis)の法理と関連付けて議論する米国の状況について整理された。
このBridgeport事件が日本で起きたらどのような判断がなされるのかという点について、安藤説は3つのポイントを挙げている。①著作隣接権制度の意義は何なのか、②レコード製作者と実演家に法的保護を与える正当化根拠は何か、③レコードと実演の成立要件には創作性が要求されていないため、保護範囲の確定に関して、創作的表現や類似性というメルクマールは使えない。では、どのようなメルクマールを使うべきか、である。
こうした観点から、安藤説は、サンプリングしたフレーズが元のレコードを識別できる程度に際限されている場合は、たとえそのフレーズに創作性がなかったとしても、著作隣接権(レコード製作者の複製権)の侵害になり、反対に、もはや元のレコードが識別できないほどに変容されている場合には、著作隣接権の侵害にはならないと解すべき、との考え方をとるべきだという。
以上の報告にひきつづき、質疑応答がなされた。中山一郎准教授(信州大学)からは、田村教授と泉教授に対して質疑がなされた。田村教授に向けては、著作権の目的は文化の発展にあるため市場経済の原理とは基本的に相容れないのではないかという議論に対する考え方、インセンティヴ論における著作者人格権の考え方、文化庁と特許庁との間のロビイング耐性の相異についての考え方について質問がなされた。
また、泉教授に対しては、JASRACへの立ち入り調査の問題に関連して、放送局との契約が包括契約か曲別契約かの違いが現状の独占的事態に対して持つ意義について確認がなされるとともに、独禁法と著作権法等との守備範囲について質問がなされた。
また、私(今村)から、野口弁護士と安藤教授に質問を行った。野口弁護士には、個別具体的な事案に対する予測可能性がどのように確保されるのかという点を、安藤教授には、学説や裁判例における解釈論によってフェアユースが必要だと言われている場面について一応の解決策が示されつつある中で、「このような解釈論により工夫できるのだから現状のままでも構わないのではないか」という議論に対する考え方について質問をした。
それぞれ活発な議論がなされたが、詳細については紀要に掲載予定の講演録を参照されたい。
(RC 今村哲也・明治大学専任講師)

パネル2:応用美術の法的保護
上智大学の駒田泰土准教授、国士舘大学の本山雅弘准教授、神奈川大学の奥邨弘司准教授をパネリストとして迎え、また、五味飛鳥弁理士・早稲田大学グローバルCOE研究員及び劉曉倩北海道大学グローバルCOE研究員がコメンテーターとして参加して、立教大学上野達弘准教授の司会で、引き続きパネル2「応用美術の法的保護」が行われた。
まず、司会の上野准教授により、現行著作権法の立法経緯、応用美術の保護に関する裁判例等が紹介され、また、問題の所在として、①応用美術の定義、②意匠法との関係、③著作権保護を認める場合の基準などが指摘された上で、3名のパネリストから、それぞれフランス法、ドイツ法及びアメリカ法との比較法的観点からの報告がされた。
駒田准教授からは、フランスにおける「美の一体性理論」が紹介された。駒田准教授は、同理論を、第一に「著作権法上応用美術の保護について純粋美術と区別するための特別な要件を加重しない」、第二に「意匠法との重複保護を認める」とする理論であると整理し、フランスでこれが発展した歴史的経緯、このような理論の下で著作権法により保護された応用美術の具体例の紹介とともに、両法の重畳を否定するイタリアの分離可能性理論も結局はデザインの芸術的価値に関する判断に左右される基準であることを解説して、このような基準に対してフランスの法律家たちは概して否定的な態度を取っていると指摘した。
本山准教授からは、ドイツにおける「段階理論」が紹介された。
段階理論は、創作性の程度あるいは造形程度をメルクマールとして意匠法と著作権法の保護領域を段階的に峻別するという理論であるが、報告において、①このような理論は、著作権法と相対されるドイツ「意匠法」が実際は「図案およびひな形についての著作権に関する法律」すなわち応用美術の保護に特化した著作権法であったという両法の本質的共通性を前提に発展したものであること、そして、②2005年に新意匠法が著作権法との体系的関係を断ち切って立法されたことから今後の法解釈における段階理論の妥当性は必ずしも明瞭でなく、学者によっては段階理論はもはや維持しえないとの指摘をしていることが解説された。
奥邨准教授からは、アメリカにおける「分離可能性理論」が紹介された。アメリカにおいては伝統的に著作権による応用美術の保護に否定的な立場が取られており、応用美術を著作権によって保護する場合において「物品の実用的な側面から別個に特定されることができ、かつ独立に存在することができる」ことを要するとする分離可能性理論は、以上のような伝統を背景として成立していることが指摘された。また、現行法の下での分離可能性理論は物理的な分離可能性と概念的な分離可能性の2つに分けて説明されるが、実際にはそのような区別は難しいことなどが、裁判例や学説の紹介ともに報告された。更に、日本法の問題として、仮に応用美術を著作権によって保護するとし且つその場合に翻案権の範囲等を調整するのであれば、応用美術の定義が必要になることが一つのポイントとなる点が指摘された。
引き続き2名のコメンテーターから、この問題についてのコメントがされた。五味弁理士からは、そもそも応用美術に対する著作権保護の必要性が不明瞭である点、また、応用美術に対し一般的創作性基準を適用するとしても保護されるデザインの範囲が明確になるわけではない点など、応用美術に対し著作権保護を及ぼす場合の問題点が指摘され、また、両法の保護領域を区別する場合の基準について、現在までに裁判所が使用している段階理論的基準の採用は不合理であること、区別するのであれば実用性を主たるメルクマールとするのが適当であり、また、補助的にデザインの無署名性(特定の人格との結びつきが弱い性格)などを参酌することの可能性が指摘された。
また、劉研究員は、実用品のデザイン全般について著作権による長期の保護を認める場合、①実用品の関連業界に深刻な弊害を与える可能性がある点、②特許庁と裁判所の間で保護の可否に関する法的判断主体の役割分担が実現できなくなる点、③個人の利用行為に対しても多大な支障をきたす可能性がある点などを指摘し、結論として、実用品のデザインの著作権保護に関しては意匠制度との調整をせざるを得ず、この場合、実用面から独立した美的創作性の有無という判断基準を用いるのが適当であろうとの見解を示した。
以上に引き続き、パネリスト間で議論が行われ、また、会場から、北海道大学田村教授、東京高裁三村判事、峯唯夫弁理士により、パネリスト等の見解への賛否ないしコメントがされた。
(RA 五味飛鳥)
〔ニュースレター No.19〕