🔭分岐管理論で鳎る䞍思議な新管楜噚ずの出䌚い岡本 岳

   幎月の朝、ある新聞蚘事が目にずたった。ダマハが新しい管楜噚を開発し、月日に発売するずいうのである。その蚘事には開発の経緯が玹介されおいた。ダマハは幎以䞊前からシンセサむザヌの音源ずしお、メモリに蚘録しおおいたサンプルを再生する音源に代わるものずしお、生楜噚の発音構造や共鳎構造をコンピュヌタヌでリアルタむムに挔算し音色を仮想的に合成しお音を出すバヌチャル・アコヌスティック音源を研究・開発しおいたが、その際、円錐管であるサックスの音を蚈算しようずするず、円錐管であるためコンピュヌタヌが行う挔算が耇雑になりすぎおしたうこずから、「円錐管は本の円筒管により近䌌される」ずいう「分岐管理論」を採甚しお、簡単にサックスの音を出せるようにし、これを幎に「」ずいう補品に搭茉し、䞖界で初めおバヌチャル・アコヌスティック音源を搭茉したシンセサむザヌを䞖に出すこずができた。そしお、その時の経隓に基づき、分岐管理論により蚈算䞊で近䌌されるのであれば、これを生の管楜噚にも応甚できるのではないかず着想し、分岐管構造を採甚した党く新しい管楜噚を開発したずいうのである。

 この蚘事を読んですぐに興味を持ったのは、シンセサむザヌの音を䜜成するためのコンピュヌタヌ䞊の蚈算に適甚した「分岐管理論」ずいう音響孊䞊の理論を珟実の生楜噚に応甚するこずができたずいう点である。楜噚の分類䞊、シンセサむザヌは電子楜噚に、サックスはリヌド付き吹奏楜噚に分類され、その技術分野は倧きく異なるから、シンセサむザヌに甚いられた技術をリヌド付き吹奏楜噚に応甚しお新しい楜噚を開発するずいうのは、各分野別の楜噚開発に携わる技術者が単独で着想できるこずではなく、䞡分野を包含する研究機関を擁する総合楜噚メヌカヌであるダマハならではのこずであるず感心したのである。そしお、党く新しい楜噚の誕生はそう滅倚に䜓隓できるこずではないので、早速、その管楜噚を予玄し、月日の発売ず同時に手に入れた。

 これが小生ず新発明の管楜噚「ノェノヌノァ」ずの初めおの出䌚いであった。ノェノヌノァは、分岐管ず蛇行圢状を採甚した独自の構造を有し、ピアノの鍵盀をむメヌゞした癜ず黒を基調にした斬新なデザむンの管楜噚であり、たた極めお小型軜量で、どこにでも気軜に持っおいくこずができ、䞀目で気に入っおしたった。しかし、楜噚を手にしお盎ちに吹いおみたものの、小生はリヌド楜噚の経隓が党くなく、ノェノヌノァから出おくる音は楜音ずは蚀い難いものであった。これは指導者を求めるしかないず考え、音楜教宀にノェノヌノァを指導しおいただける先生を玹介しおいただき、以来、珟圚に至るたでその修行䞭である。

 せっかくの機䌚なので、この新楜噚ノェノヌノァに関係がありそうな特蚱技術を調査しおみた。たずは、特蚱第号「楜音合成装眮および管楜噚」幎月日出願・幎月日登録である。その請求項は、「自然楜噚における発音メカニズムをシミュレヌトしお楜音を合成する楜音合成装眮においお、本の円筒管を各々シミュレヌトした手段であっお、各々、入力信号に察しお少なくずも遅延凊理を斜しお出力する第および第の䌝送手段ず、マりスピヌスをシミュレヌトした手段であっお、前蚘第および第の䌝送手段に䟛絊する励振信号を発生する励振手段ず、前蚘第の䌝送手段の出力信号の振幅を、0䜆し、0 は前蚘励振手段がシミュレヌトするマりスピヌスの断面積、は前蚘第および第の䌝送手段シミュレヌトする円筒管の断面積、は所定のパラメヌタを瀺すなる匏により求たる乗算係数αL に基づいお制埡する第の制埡手段ず、前蚘第の䌝送手段の出力信号の振幅を、0なる匏により求たる乗算係数αx に基づいお制埡する第の制埡手段ず、前蚘励振手段の出力信号の振幅を、00なる匏により求たる乗算係数αi に基づいお制埡する第の制埡手段ず、前蚘励振手段ず、前蚘第および第の䌝送手段ずを結合し、各々の間の信号の授受を媒介する結合手段ずを具備するこずを特城ずする楜音合成装眮。」ずいうものであり、この特蚱発明により、「円筒管をシミュレヌトした手段によっお円錐圢の共鳎管を実珟するこずができるので、簡易な構成で円錐管をシミュレヌトするこずが可胜ずなり、これにより、円錐管を有する管楜噚の音を小芏暡な回路構成あるいは少ない挔算量により合成するこずができるずいう効果が埗られる。」ずされおいる。同特蚱発明は、幎に発売されたシンセサむザヌ「」に搭茉されたバヌチャル・アコヌスティック音源に採甚された技術であるず考えられる。その明现曞には、「自然楜噚の応甚以䞊の各実斜䟋は、本発明を電気的な回路あるいは等が実行するプログラムによっお具珟する堎合を説明したものである。しかし、本発明の適甚はこれらに限定されるものではない。本発明に基づいお既存の自然楜噚を倉圢し、これたでにない挔奏を行うこずが可胜な新芏な自然楜噚を䜜補するこずができる。」、「図に瀺す第の応甚䟋は、本実斜䟋による楜音合成装眮の倉圢䟋ずしお瀺したものを生楜噚ずしお実珟したものである。この生楜噚は、円筒管ずマりスピヌスずの継ぎ目の郚分にマりスピヌスおよび共鳎管を貫通する開口郚が圢成されおおり、この開口郚に䞭空円筒圢状のアタッチメントが嵌め蟌たれるようになっおいる。」ずあり、その図を芋るず、「䞭空円筒圢状のアタッチメント」は分岐管に圓たる構成であるず芋お取れ、ここに既に新管楜噚ノェノヌノァの芜が生たれおいるずいえよう。

 次は、特蚱第号「管楜噚の管䜓」幎月日出願・幎月日登録である。その請求項は、「管状の぀の吹蟌郚ず、管状の䞻管郚ず管状の副管郚ずに分岐した分岐管であっお、前蚘䞻管郚ず前蚘副管郚ずが分岐した郚分に前蚘吹蟌郚が接続された分岐管ずを具備し、前蚘䞻管郚の管長は前蚘副管郚の管長より長く、前蚘䞻管郚たたは前蚘吹蟌郚は、前蚘副管郚の終端郚もしくは前蚘副管郚の䞀郚が開口した状態で所望の音高を埗るための音高調敎郚を有し、前蚘副管郚には、第のオクタヌブ孔が蚭けられ、前蚘吹蟌郚から気䜓が吹き蟌たれるず、圓該気䜓が前蚘䞻管郚および前蚘副管郚の双方に流れるこずを特城ずする管楜噚の管䜓。」ずいうものである。その明现曞には、「図は、図の円錐管にマりスピヌスを取り付けた管楜噚を瀺す図である。管䜓は、円錐管ずこの円錐管の入口郚に取り付けられたコルクからなる。このコルクを介しお管䜓はマりスピヌスの内偎ぞ装着される。図は、分岐管を備える管楜噚を瀺す図である。この管楜噚は、䟋えばサキ゜フォヌンのように、マりスピヌス内から管䜓が開始する図のような構造を持぀管䜓党䜓を分岐管で近䌌する。」ずあり、図を芋るず、にはテヌパヌ管を備える管楜噚の図が、には分岐管を備える管楜噚の図が蚘茉されおいる。そしお、この特蚱発明により、「オクタヌブの音域の音を発音する分岐管を有する管楜噚においお、オクタヌブの音域の音を発生させるこずができる。」ずされおいる。実際にノェノヌノァはオクタヌブの音域をカバヌしおおりフラゞオレットでは曎に高音域も挔奏可胜である、この特蚱発明が実斜されおいるものず考えられる。

 さらに、特蚱第号「管楜噚の管䜓」幎月日出願・幎月日登録がある。その請求項は、「管状の䞻管郚ず、前蚘䞻管郚に沿っお配眮された管状の副管郚ず、前蚘副管郚の終端郚もしくは前蚘副管郚の䞀郚が開口した状態で所望の音高を埗るための音高調敎郚ずを備え、前蚘䞻管郚の長手方向の端郚に開口する開口郚ず前蚘副管郚の長手方向の端郚に開口する開口郚の各々がリヌドを介さずにマりスピヌスの端郚に開口する開口郚に通じるように配眮されるこずを特城ずする管楜噚の管䜓。」ずいうものであり、この特蚱発明により、「分岐管を有する管楜噚においお、管楜噚が発音する音域における音色の倉化を抑制するこずができる。」ずされおいる。

 なお、特願-「管楜噚」幎月日出願は珟圚審査䞭のようであるが、その請求項は、「管䜓ず、前蚘管䜓の倖呚から延びお圢成され、前蚘管䜓の内偎に開口する内偎開口端、及び、前蚘管䜓の倖偎に開口する倖偎開口端を有する耇数の音孔管ず、を備え、耇数の前蚘音孔管の倖偎開口端が該倖偎開口端を塞ぐ手指に察応した䜍眮ずなるように、前蚘管䜓及び前蚘音孔管の少なくずも䞀方が曲がっおいる管楜噚。」ずいうものであり、この発明によれば、「管䜓ず、前蚘管䜓の倖呚から延びお圢成され、前蚘管䜓の内偎に開口する内偎開口端、及び、前蚘管䜓の倖偎に開口する倖偎開口端を有する耇数の音孔管ず、を備え、耇数の前蚘音孔管の倖偎開口端が該倖偎開口端を塞ぐ手指に察応した䜍眮ずなるように、前蚘管䜓及び前蚘音孔管の少なくずも䞀方が曲がっおいる管楜噚を提䟛する。  管䜓ず、前蚘管䜓の倖呚から延びお圢成され、前蚘管䜓の内偎に開口する内偎開口端、及び、前蚘管䜓の倖偎に開口する倖偎開口端を有する耇数の音孔管ず、を備え、前蚘音孔管は、耇数の前蚘音孔管の倖偎開口端が該倖偎開口端を塞ぐ手指に察応した䜍眮ずなるように、前蚘音孔管の軞線が前蚘管䜓の埄方向に察しお傟斜する斜行管郚を有する管楜噚を提䟛する。」こずにより「管楜噚の音響的な性胜、及び、管楜噚の操䜜性の䞡方を容易に確保できる。」ずされおいる。この発明は、ノェノヌノァの蛇行圢状に関係するものであり、同発明により、ノェノヌノァはコンパクトなサむズで、か぀、たくさんのキヌを䜿わずに指でトヌンホヌルを抌さえる構造を実珟しおいるものず考えられる。

 もう䞀぀泚目すべきは、ノェノヌノァは、分岐管ず蛇行圢状を有する斬新なデザむンを有しおいるずいう点であり、ダマハは、このデザむンに぀いお意匠登録第号意匠に係る物品管楜噚、同第号同・郚分意匠、同第号同・郚分意匠を取埗しおいる。そしお、ノェノヌノァの斬新なデザむンは、日本の幎グッドデザむン倧賞を受賞しおいる。審査委員の評䟡では、「既存の楜噚の衚局のデザむンでなく、新しい楜噚そのものを生み出しおいる。リコヌダヌのような優しい指䜿いで挔奏ができ、サックスず同等の吹き心地を実珟させたプロセスに評䟡が集たった。たた、サックスの音を実珟するために怜蚎された分岐管構造はもちろんの事、蛇行圢状によっお生たれたフォルムも本䜓の持ちやすさを助けおおり、完成床の高い商品である。」グッドデザむン賞のホヌムペヌゞからずされおいる。

 さお、ノェノヌノァの修行は珟圚も続いおいる。最初は楜音ずはいえないような音しか出せなかったが、垫のご指導で音色が良くなっおいくのが実感できおいる。そうするず、この小さくおシンプルな管楜噚から本栌的な音が出るこずが魔法のように思えおナントも䞍思議な気がし、衚題では「䞍思議な新管楜噚」ず呌ぶこずにした。

 楜噚を習うこずによっおいろいろ良い果実が埗られるずも実感しおいる。たず、音楜の聞こえ方が倉わったずいうこずである。これたでもコンサヌトやなどで音楜を聎く機䌚はたくさんあったが、プロの挔奏が䞊手なのは圓たり前のこずのように感じおいた。しかし、自分で楜噚をいじっおみるず、正しい音皋を出すずいうはじめの䞀歩のずころからナント難しいのだろうず感じおしたう。そしお、プロの挔奏家の楜噚をコントロヌルする力がどれほど玠晎らしいものかず感心しおしたうのである。たた、アンサンブルやセッションを聎くず、それぞれのパヌトがどのように動いおいくのかに関心が向くようになった。音楜を聎く耳が倉化したように思う。

 次に、音楜を通じたコミュニケヌションが広がったように感じおいる。音楜を習うこずによっお、垫ず出䌚い、その知り合いの挔奏家や同奜の士ずも知り合い、様々な挔奏䌚ず出䌚うこずができた。たた、音楜自䜓がコミュニケヌションであるず感じおいる。これたでは、挔奏家が挔奏し、聎き手である自分はそれを受け止めるずいう関係しかなかったが、レッスン自䜓が、垫の音を聎きながら、自分の挔奏を合わせるずいうコミュニケヌションであり、そこに挔奏する楜しみがあるずいうこずを䜓隓しおいる。

 ただただ友人たちずアンサンブルやセッションを楜しむずいうレベルには達しおいないが、この新楜噚を通じお楜しいコミュニケヌションができるよう、これからも日々修行に励んでいきたい。

---- 岡本 岳----  

泚Venovaの画像はダマハ株匏䌚瀟様から提䟛しおいただきたした。RCLIP事務局

 

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