🔭ビデオゲーム実況をめぐる著作権問題(周洪騫)

   年の瀬の、寒気いよいよ厳しい季節となりました。この寒さの中、外に出ないで、おうちでビデオゲームをするのが一番快適とは思いませんか。筆者もビデオゲームの大ファンで、休みの時はゲームを楽しむことが多いです。それだけではなく、疲れた時に、他の人がゲームを遊ぶのを見るのも大好きです。最近、ビデオゲームの実況生放送は世界中大ブームになり、それを巡るビジネスの規模も増大する一方です。筆者の母国中国では、ゲーム実況の放送者に一年一千万人民元(約一億六千万円相当)の契約金を受けている人もいます。日本においても、ニコニコ動画、Twitchなどのストリーミング配信プラットフォームが見られ、景気よくビジネスが展開されています。
 しかし、ビデオゲームも著作物の一種として考えられているため、そのゲームの画面などをネットに通じて放送することは、著作権法上どう評価すべきでしょう。

一、ビデオゲーム・ゲーム画面の著作物性

 日本では、ビデオゲームを映画の著作物として保護するのが「パックマン事件[[i]]」に最初に認められました。その後、最高裁判所は「ときめきメモリアル事件[[ii]]」及び「中古ゲームソフト事件[[iii]]」において、ゲームソフトが映画の著作物に該当することを確認しました。一方中国では、ビデオゲームの保護形式についてまだ統一されていません。2014年の「ハースストーン事件[[iv]]」において、上海第一中級人民法院は問題とされたゲーム・プログラムをアイコン、ゲーム・インタフェース、アニメーションなどに分解して、類似性を検討しました。それに照らして、2017年に判決された「夢幻西遊2事件[[v]]」では、広州知識産権法院[[vi]]は問題とされたゲーム・プログラム全体を映画の撮影製作に類する方法により創作された著作物として認めました。手法は違うけれど、ゲームにおける著作権を積極的に保護しようという態勢を、中国の裁判所が取っていることが確かでしょう。

二、ゲーム画面の放送について

ゲーム画面の放送について、利用許諾契約などにより制限がかかる場合が多いです[[vii]]。なぜなら、ゲーム実況者の放送はゲームの宣伝にはなるが、ネタバレになりゲームが売れなくなる恐れもあるでしょう。前述の「夢幻西遊事件」において広州知識財産法院は、無断でインターネットを通じてゲーム画面を放送する行為は、著作権法十条一項十七号に掲げる「著作権者が享有すべきその他の権利」の侵害になると判示した。これは、もともとインターネットにおける放送行為を扱うべき情報ネットワーク伝達権はビデオ・オン・デマンド(ユーザーが自分で視聴する内容・タイミングを選べる)という形式の伝達行為だけを対象としているためです。それに照らして、実況送信はリアルタイムで放送されているため、ユーザーが視聴する内容や時間帯などを選択することができず、情報ネットワーク伝達権の対象とはなりません。
 筆者としては、中国著作権法上の「その他の権利」の範囲をここまで広く解釈できるかについてすごく違和感を覚えています。しかし、中国の現行著作権法はリアルタイム送信に十分対応できていないので、裁判所は公平性等の観点から、そのような判断を余儀なくされたと思われます。インターネット環境に備えた法改正を早速導入して欲しいですね。

三、紹介・攻略ビデオとしての利用

 実況者がゲーム画面を放送する場合、ただプレイするだけではなく、ゲームの攻略として視聴者に解説などをすることが多いです。その場合、権利者の許諾がなくても、著作権法上の引用として正当化する可能性があります。確かに、ゲームの攻略などを作る際に、視聴者に特定な場所や操作方法を教えるために、生のゲーム画面を使って解説するほうがわかりやすいです。日本著作権法における引用の成立要件として、最高裁が「パロディー・モンタージュ事件[[viii]]」に示した二要件説と最近の総合考慮説[[ix]]があります。前者において引用の明瞭区別性と主従関係が成立の判断基準となっていて、後者は利用の目的・態様・や 原著作権者に及ぼす影響の有無などの諸要素を網羅的に総合考慮する基準です。
 一方、中国においても、映画のポスターに他人の著作物であるキャラクター美術作品を使用する行為が問題とされる事案[[x]]がありました。被告は、映画ポスターに年代感のあるアニメ・キャラクターの絵を使用する行為は、著作権法二十二条一項二号にいう「ある問題を説明するために、著作物において他人に既に公表された著作物を適切に引用する場合」に該当すると主張して、裁判所にも認められました。いずれにせよ、攻略などを目的とした無断実況送信を正当化するためには、ゲーム画面の使用分量等に注意しなければならないでしょう。

四、ゲーム実況に伴うBGM放送について

 激しいゲームをプレイするときは、ゲーム自身の音楽をそのまま流してもよかったが、すごく穏やかなゲーム(カードゲーム等)をするとき、盛り上がるような音楽を流す放送者も少なくないです。こういう時、ゲームの著作権者の権利とは別途で、流された音楽の著作権者の権利も問題となるでしょう。もちろん、ローカルに保存されている音楽ファイルを無断で流すことの正当化が難しいです。ただ、クラウド・ミュージック・サービスを利用する場合はどうでしょう。特に最近の中国では、音楽をダウンロードするではなく、クラウド・ミュージック・サービスを利用してオンラインで聞くことが多いです。その中に最も使われている「網易雲音楽」は基本サービス(オンライン・ストリーミング)無料で、曲のダウンロードや一部の曲(権利者とのライセンスによる)の視聴が有料となっています。さて、そのようなミュージック・ストリーミング・サービスを使って、実況放送の視聴者に無料音楽を流す行為は権利侵害になるでしょうか。
 誰でも無料で視聴できる内容の伝達について、欧州司法裁判所が最近のSvensson判決[[xi]]において、面白い考え方を提示しました。すなわち、権利者の許諾に基づく第一伝達があり、それと同様な技術手段を用いて、新しい「公衆」に向けられていない第二伝達は「公衆への伝達」とならないことです。
 ここのポイントは、①同様な技術手段と②第一伝達の許諾について権利者が考慮されていなかった「新しい公衆」だと思われます。それをゲーム実況のケースに当てはめると、①インターネットを通じるストリーミング送信で②誰でも無料で聞ける音楽を視聴者たちに流すことになります。
 このように、ゲーム実況放送の際に、無料ストリーミング音楽を流しても著作権侵害にならないと思われます。とりわけ今の中国ストリーミング音楽市場での競争が激しくなっています。サービス運営者たちは当分、ユーザーを囲い込もうとして、実況プラットフォームとのコラボレーションイベントも開催している。そのため、無断で音楽を流すことで訴えられるではないかというのはそもそも杞憂かもしれません[[xii]]。

終わりに

 ゲーム実況放送を含むライブ・ストリーミング・サービスは近年大ブームになったが、著作権法上の課題がまだたくさん残されています。無料で見られるゲーム実況で人気を集めるのはいいものの、うまく収益化できずに破産してしまう事業者もいます[[xiii]]ので、なおさら著作権問題に気を付けなければなりません。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。年末でお忙しい毎日とは存じますが、ゲームばかりではなく、体の鍛錬も忘れずに、どうかご自愛下さいますようお願い申し上げます。
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[[i]] 「パックマン事件」昭56(ワ)8371号 東京地裁昭和59年 9月28日判決

[[ii]] 平11(受)955号 最高裁平成13年2月13日判決

[[iii]] 平13(受)952号 最高裁平成14年4月25日判決

[[iv]] (2014)沪一中民五(知)初字第23号 カードゲーム「ハースストーン」のアイコン、カード設計やゲーム・アニメーションの複製権侵害に関する事案です。

[[v]] (2015)粤知法著民初字第16号 原告が運営しているMMORPG「夢幻西遊2」のプレイ実況が被告のゲーム実況プラットフォームに放送されることに対して差止及び損害賠償が求められた事案です。

[[vi]] 2014年より、中国では北京・上海・広州において三つの知識産権法院が設立されました。知識産権法院は専ら知的財産権に関する訴訟を扱う裁判所であり、中国の各級中級人民法院に相当します。

[[vii]] 例えば、「ペルソナ5」というゲームの公式ホームページにおいて、オープニング以外のゲーム全編にわたり、動画投稿サイト等でのネタバレをしないようというお願いが載せられています。http://p-ch.jp/news/detail/?nid=470

[[viii]] 昭51(オ)923号 最高裁昭和55年3月28日判決

[[ix]] 「脱ゴーマニズム宣言事件控訴審」平11(ネ)4783号 東京高裁平成12年4月25日判決、「美術鑑定証書事件控訴審」平22(ネ)10052号 知財高裁平成22年10月13日判決を参照

[[x]] 「80年代生まれの独立宣言事件」上海市知識産権法院 (2015) 滬知民終字第730号

[[xi]] Case C‑466/12, Svensson v Retriever Sverige AB(2014) 詳しくは谷川和幸「欧州司法裁判所の「新しい公衆」論について(1)」知的財産法政策学研究第53号109頁以下(2019年)をご参照ください

[[xii]] ただ、中国ではライブで歌った歌を録画して実況プラットフォームにアップロードすることは情報ネットワーク伝達権の侵害に該当すると判示された事案があります。なお、本事案では、放送者がライブ放送において歌を歌う行為は問題とされませんでした。(2019)京73民终1384号 中国語記事として、http://www.sohu.com/a/331294818_100262104をご参照。

[[xiii]] 「熊猫直播(PandaTv)、ライブ配信事業に終止符を打つ」 日本経済新聞2019年4月3日https://36kr.jp/19400/

---- <周洪騫(RC)>----  

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