🔭おいでませ、小川明子研究室へ(小川明子)

   前回2017年にコラムを執筆してから、すでに3年の月日が流れている。執筆後8月から宇部市で仕事をはじめ、その後の教員公募を経て、2019年4月からは山口市が主な活動の場となった。久しぶりに本コラムを書く機会を頂いたので、(ほとんど)誰も知らない小川明子研究室、AKA(別名)、RCLIP山口温泉支部についてお話ししたい。山口の特徴はと言えば、山に囲まれて、うまい魚と酒と温泉があるといった点に集約され、そして、RCLIP山口温泉支部ではセミナーも開催している。

山      
    これは、私の研究室から撮った2枚の写真であるが、山が360度続く。人によって、山に囲まれていると見るか、山によって外部と隔てられていると感じるかだが、新幹線は山に風穴(トンネル)をあけて東へ西へとつながっているし、飛行機は山のはるかに上を飛び越えていくので、実質的な閉塞感はない。居心地がいいのも理由の一つかもしれない。

酒と魚(あるいは肴)

 埼玉県出身であるためか、山口の魚のおいしさと種類の多さにはただただ驚く。さらに、どこのスーパーでもフグが普通に置いてある。例えばフグのから揚げ(粉をつけたもの)8個入りは290円で売られており、昨日の夜7時過ぎに行ってみるとすでに半額シールが貼ってあった。もちろん家でカラリと揚げて美味しくいただいた。

 酒は獺祭が有名である。西日本豪雨の際に、「課長島耕作(今は会長)」のラベルをつけて、出荷できないはずだった酒を出荷して一部を被災地に寄付した[1]ことでも知られる。個人的には五橋(ごきょう)と盗用美人、いや、東洋美人が好みである。
 盗用ではないが、ラベルに係る裁判として、アメリカでは、2015年に不機嫌な猫のラベルで売られた(但し、ノンアルコール)飲料で訴訟が起きている。被告Grenade Beverage LLCは、インターネットミーム(Internet Meme)である不機嫌な猫(Grumpy cat[2])の肖像を付したアイスコーヒーGrumppucinoを販売する契約を、権利者である原告Grumpy Cat Limitedと結んでいた。契約上の“a line of Grumpy Cat-branded coffee products”に対して、被告がGrumpy Beverage LLCにサブライセンスして作らせた「豆をひいたコーヒー商品(Grumpy Cat Roasted Coffee)」および”Grumppuccino”Tシャツの販売が、契約の範囲内となるか等が争点となった[3]。結局、権利者側は、2018年に71万ドルの損害賠償を勝ち取ったとされる。猫はとにかく、飼い主は機嫌が直ったに違いない。

 湯田温泉には、800年前に足を怪我した白狐が見つけたという伝説がある。そのため、JR湯田温泉駅前には、巨大な白狐の像が立っており、駅に隣接して無料の足湯もある。毎週土日には、SLが通るのも人気である。乗ってみると、沿線の人々が手を振ってくれるので、あたかも皇室の方々のようにお手振りをすることになる。手がつかれるが。人は概しておっとりしており、「そうじゃろ(そうだろう)」「しちょる(している)」という山口弁は耳に優しい。

 どこで働くにしても、最も重要なことは、どうやって疲れを癒すかである。もちろん、フグで晩酌をすればだいたいの悩み事は解決するが、ここに、肩こりという問題がある。肩こり解消の最終兵器は温泉に他ならない。ほとんどの温泉ホテルは、日帰り入浴が可能であり、380円から1600円を払えば、極楽、極楽となる。無料の足湯も街中にあり、割引入浴回数券を買って湯治気分を味わうのも豪勢である。

公開セミナー

 RCLIP山口温泉支社を名乗るからにはと、2019年度内に(学内セミナー以外に)6回の公開セミナーを開催した。7月:たのしい著作権法セミナー、10月:追及権セミナー、11月:通訳なしの英語による追及権国際セミナー(Frederic Pollaud-Dulian 先生、Roberto Carapeto先生)、11月:知財創作者セミナー「画家と著作権」(福王寺一彦先生)、12月:知財判例セミナー(高林龍先生、清水節先生、末宗達行先生)、そして、1月:知財創作者セミナー「写真家と著作権」(堀切保郎先生)である。東京のような参加人数を望むことはできないが、参加者からは次の開催を望むといった声は多く聞かれた。
 知財判例セミナーの際、私は学生たちに向かって、「高林先生は私にとっては(親に等しい)お師匠様なのだから、君たちにとってはおじいちゃんにあたる」と言った。続く宴会の席では高林先生から、おじいちゃんとは何事かと咎められたが。しかし、主旨は、私がまだまだ良い先生になっていないとしても、そのルーツは由緒正しい高林先生なのだということであり、これを学生に知ってほしかった。「先生、私は言い間違えました。私がおばあちゃんで、先生はひいおじいちゃんです。」と修正しておいた。

 さて、我が研究室には、朝から学生が駆け込んでくる。私が英字新聞を購読していることから新聞を見たいという学生、眠くて死にそうなのでコーヒーをくださいという学生、留学相談の1年生、就職相談の3年生と多彩である。2年生はみな海外留学中なのだが、時折、帰りたくなったけれどどうしようといったメールが送られてくる。学生の多くは県外からの下宿生であり、おそらく、口うるさい母か祖母という感じでやってくるのだろう。しばしば、「先生は親みたいだよね」「産んだ覚えはない」という会話が交わされる。
 学内外の人とのミーティングも含めると、研究室というよりは談話室と化しているため、採点が終わったら、この春休みが研究のチャンスだ!と虎視眈々と狙っている次第。

 山、酒、魚、湯、そしてセミナーと聞いて、RCLIP山口温泉支部に来てみたくなった方、いるのではないだろうか。国立大学にはお金はないが広い敷地があり、真面目な学生もたくさんいる。そしておいしい山口があなたを待っている。

おいでませ、RCLIP山口温泉支部へ。もちろん宴会と温泉付きである。

             (招聘研究員:小川 明子)
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[1] 加藤勇介「被災した日本酒「獺祭」65万本、島耕作ラベルで販売へ」朝日新聞デジタル 2018年8月3日記事 https://www.asahi.com/articles/ASL8255W9L82UCVL00F.html 

[2] 猫の本名はTardar Sauce。

[3] Grumpy Cat Limited v. Grenae Beverage LLC, et al, case no. SA CV 15-2063-DOC

 

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