🔭コラム:Tea Break (加藤幹)

 以前本コラムに「Coffee Break」という記事を寄稿した(*1)。今回はその後日談である。
 2012年あたりから切れ始めたというNespressoの特許、その最先のものは特許第2784293号ではないかと思われる。J-PlatPatで確認すると、確かに2012年5月で権利が消滅したようである。それからほぼ6年が経過した現在、多くの企業がコンパーチブルカプセル市場に参入しているようだ。
 とりわけ、Starbucksがコーヒーのコンパーチブルカプセルを販売していたり(*2)、Liptonが紅茶のコンパーチブルカブセルを販売していたり(*3)するのは驚きである。繰り返すが、コーヒー業界、紅茶業界で誰知らぬ者とてない世界的企業のStarbucksとLiptonが、である。この市場はそんなに伸びしろがあるのだろうか。まぁ、選択の幅が広がることは、一消費者としては大歓迎である。実際にいくつかコンパーチブルカプセルを購入して試してみたが、なかなか美味しかった。もっとも、紅茶のカプセルは、販売されてほしいと前回のコラムで述べたが、まだ試してはいない。
 さて、本家のNestleは、相変わらず定期的にコーヒーの特別限定カプセルを販売するなどしており、私などは毎回購入して楽しんでいるが、Special.Tと銘打って新たにお茶の世界に参入したようである(*4)。抽出装置に茶葉が詰められたカプセルをセットしてボタンを押せば自動でお茶が抽出されるという、Nespressoの二番煎じだ。悪い意味で二番煎じといったのではない。お茶にまつわる慣用句を使ってみたかっただけである。
 Special.TのWebサイトを眺めてみると、日本茶、中国茶、紅茶がそれぞれ数種類ずつ、他にフレーバーティーやハーブ&ルイボスティーもあり、なかなか楽しそうだ。なぜ抽出装置をNespressoと共通にしないのだろうかと思ったが、Webサイトでは、茶葉の種類毎に適切な温度と蒸らし時間を設定して淹れると説明されており、得心した。確かに、エスプレッソの適切な淹れ方とお茶の適切な淹れ方とが異なる以前に、そもそも茶葉の種類により適切な淹れ方が大きく異なるので、抽出装置から新たに開発する必要があったというのは至極もっともな話である。冗談でも二番煎じなどと言ったのは不適切であった。
 Nestleは、Special.Tにおいて、興味深いことに日本茶は福寿園と、紅茶はLUPICIAと連携しているようである。その理由には、Nestleにとって日本茶、紅茶はコーヒーほど得意な分野ではなかったためということもあろうが、それだけではなく、Nespressoにおけるサードパーティーの参入という経験から、予め有力な企業と連携して企業連合として市場競争力を確保しようということもあったのではないか。こうした取り組みは、前回のコラムで指摘した、サードパーティーの参入を前提としたビジネスモデルのひとつの解ではないかと思われる。一方、Nespressoにおいては、特許が切れたからといってビジネスモデルを変えたりカプセルの価格を下げたりしたようには感じられない。コーヒーの品質や、特許権による独占の間に培った信用、ブランド力に裏打ちされた横綱相撲というところであろうか。
 このSpecial.T、お茶のカプセルの定期便を申し込めば、抽出装置本体を無料で貸してくれるようだ。定期便は2か月でカプセル10個からと全く無理のない範囲。これはもう、申し込むしかないのである。お茶は安価又はただと刷り込まれているので、コーヒー以上にランニングコストが気になるし、Nespressoの抽出装置に加えてSpecial.Tの抽出装置を置くのは邪魔になるのではないかという懸念もあるが、だからこその無料貸与である。前回のコラムでも述べたが、手軽に本格的というのは大変魅力的である。・・・この市場、まだまだ伸びそうである。
-----------------------------------------------------------------
(*1) https://www.rclip.jp/activity/column95.html
(*2) http://www.starbuckscapsules.co.uk
(*3) https://www.lipton.com/fr/nos-thés/capsules.html
(*4) https://nestle.jp/brand/SPECIAL.T/

                                                                 加藤幹(RC)

Previous
Previous

🔭コラム:海外で知財を教え四半世紀を迎えて (竹中俊子)

Next
Next

🔭コラム:保護期間延長問題と著作権法改正プロセス(中山一郎)