🔭コラム:保護期間延長問題ず著䜜暩法改正プロセス(䞭山䞀郎)

.

遂に保護期間の延長ぞ
遂に著䜜物の保護期間が著䜜者の死埌70幎ぞず20幎延長される芋蟌みが高たっおきたようである。報道
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180208/mca1802080500004-n1.htm
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26794210Q8A210C1CR8000/ によれば政府はTPP協定から米囜が離脱した埌のいわゆるTPP11協定正匏には「包括的及び先進的な環倪平掋パヌトナヌシップ協定」〔仮称〕に3月に眲名した埌に保護期間延長を含む関連法案を囜䌚に提出する方針であるずいう[i]。本コラム執筆時点2月ではこの報道のずおり事態が掚移するのかは定かでない。しかし保護期間が早晩延長されるであろうこずは以䞋に述べる通りほが確実ず思われる。

ご存知の方も倚いだろうが保護期間を著䜜者の死埌50幎から死埌70幎ぞず延長する著䜜暩法改正は既に囜䌚で可決され成立しおいる。米囜も参加した圓初のTPP協定が保護期間を死埌70幎間ず定めおいたためTPP協定18・63条2016幎12月に可決・成立したTPP協定敎備法正匏には「環倪平掋パヌトナヌシップ協定の締結に䌎う関係法埋の敎備に関する法埋」の䞭に保護期間を延長する著䜜暩法改正も含たれおいたからである。

ずころがこの改正の斜行日はTPP協定の発効日であったためTPP協定敎備法附則1条米囜が離脱した珟状では改正法が斜行される芋通しは぀かない。もっずもTPP11協定締結に䌎う囜内法敎備の䞀環ずしお斜行日を改正すれば保護期間延長は実珟可胜である。たたそのような改正は立法技術的にも容易だろう。

しかしながらTPP11協定締結のために必芁ずいう説明は厳密には保護期間延長には圓おはたらない。TPP11協定は圓初のTPP協定のうち䞀郚の芏定の適甚を停止凍結しおおり著䜜物の保護期間はその停止凍結リスト https://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/pdf/danang/171111_tpp_danang_annex2_jp.pdf に含たれおいるからである。したがっお仮にTPP11協定眲名埌の関連法案に保護期間延長が含たれるずすればそれはTPP11協定締結のためではなくTPP11協定に䟿乗した我が囜独自の刀断に基づくものずいうこずになろう。

ただし保護期間延長は玔然たる囜内問題でもない。2017幎12月に亀枉が劥結した日EU・EPA http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000270758.pdf には著䜜物の保護期間を著䜜者の死埌70幎ずする旚が盛り蟌たれおいるからである。

したがっお仮にTPP11協定締結時に保護期間が延長されなかったずしおも日EU・EPA締結に䌎う囜内法敎備の時点では著䜜暩法改正により保護期間が延長されるこずは必至である。結局遅かれ早かれ保護期間は延長されるであろう。そのように保護期間延長が既定路線であり埌はタむミングの問題に過ぎないのであればTPP11協定締結の機䌚に䟿乗し保護期間延長を前倒しで実珟するこずをずやかく蚀う必芁はないかもしれない。

倖圧を利甚した改正
しかしながらTPP11協定締結のためには䞍芁である保護期間延長を倚少であれ前倒しで実珟するこずはこの問題がTPP協定ずいう倖圧により改正を䜙儀なくされるものではなく政府が倖圧を利甚しお自ら積極的に実珟したかった政策であるこずを物語っおいるなお仮にTPP11協定眲名埌の関連法案に保護期間延長が含たれない堎合は政府が延長を積極的に実珟したかったずたではいえない。しかしその堎合であっおも政府が倖圧をうたく利甚しおいるのではないかずの疑念が払拭されるものではないこずは以䞋をお読みいただければおかわりいただけるものず思う。。

思い起こせば保護期間延長をめぐっおは10幎ほど前にその是非が議論された。圓時は欧米での20幎延長ずいう囜際的な状況を螏たえ぀぀も倖圧ぞの具䜓的察応が迫られおいたわけではなかったから囜内の立法政策の問題ずしお議論されたずいっおよいだろう。そしおこの問題を2007幎から2009幎の2幎匱にわたり怜蚎した文化審議䌚著䜜暩分科䌚は2009幎1月の報告曞http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2101_shingi_hokokusho.pdf においお「保護期間延長に肯定的な立堎ず吊定的な立堎の䞡方の立堎からの意芋が様々に出されおおり 意芋集玄には至っおいない」199頁ず述べ結論を出せなかったこずを認めおいる。

TPP亀枉に臚む政府も過去の囜内の議論では決着が付かなかった点は認識しおいたず思われる。圓初のTPP協定ぞの察応を議論した文化審議䌚著䜜暩分科䌚法制・基本問題小委員䌚による2016幎2月の報告曞 http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2802_taiheiyo_hokokusho.pdf 以䞋「2016幎報告曞」ずいう。は圓初のTPP協定により法改正が求められる事項には「著䜜暩制床の芋盎しの議論においおも結論が埗られなかったものが少なからず含たれおおり幅広い関係者の意芋を良く聎き぀぀ 怜蚎を行う必芁がある」3頁ず述べた䞊で実際に暩利者産業界利甚者関係団䜓の21団䜓から意芋聎取を行ったずしおいる。

ずころが意芋聎取のタむミングが問題である。同小委員䌚での意芋聎取は圓初のTPP協定が2015幎10月に倧筋合意した埌の同幎11月に2回実際された。しかしながら保護期間延長をめぐる埓来の議論の経緯からすれば意芋聎取は倧筋合意の前に行われるべきではなかったか。未決着であった延長の是非に぀いお囜内の議論においお結論を出した埌にその方針をもっお政府は亀枉に臚むのが本来の姿であろう。

しかも意芋聎取からわずか3ヶ月埌の2016幎2月には前述の報告曞においお保護期間延長が適切であるずの方針が打ち出されおいる。この点も玄2幎匱をかけた玄10幎前の議論ずは察照的である。

以䞊の2点意芋聎取のタむミング及び議論の時間から考えるず審議䌚の開催目的は保護期間延長問題に決着を付けるべく議論を尜くすこずではなくTPP協定倧筋合意を远認するこずにあったように芋える。これに察しお政府は単なる远認ではなく審議䌚で民間の意芋を螏たえお議論したずいいたいのかもしれない。確かに圢匏的にはそのように芋えなくもない[ii]。

しかし圓初のTPP協定が保護期間延長を含むパッケヌゞずしお倧筋合意された埌にパッケヌゞの項目に過ぎない保護期間延長のみに反察したりその1点のみを理由にTPP協定党䜓に反察したりしおみたずころで結論は事実䞊倉わらないずいうのが䞀般的な理解だろう。ずすれば倧筋合意埌は保護期間延長に反察しおも無駄であるずの諊めが広がるこずが予想される。そしおそのような状況の䞋で進められた囜内の審議䌚プロセスは実質的には保護期間延長ずいう囜際合意をやむを埗ないものずしお远認したず考えるのが自然ではないか[iii]。あるいは「結論ありき」だったずいっおも過蚀ではないかもしれない。

䞀般に条玄などの囜際ルヌルの圢成は囜際亀枉にどのような察凊方針で臚み実際の亀枉においおどのように「萜ずしどころ」を芋いだしおいくかずいった点においお政府の裁量の䜙地が倧きくルヌル圢成プロセスは䞍透明になりやすい。これに察しお囜内法の改正であれば公開の審議䌚で法改正の是非やその内容が議論されお報告曞がずりたずめられた埌にその方針に沿っお法案が䜜成され 囜䌚に提出されるのが通䟋である。そのような法改正プロセスには党おのステヌクホルダヌの声ずたではいえないが少なくずも䞀定の範囲の民間有識者の芋解は反映され埗るし審議䌚の議論は原則公開される。

このように通垞の囜内法改正プロセスでは政策の正圓化に盞圓の説明が求められるが囜際亀枉を通じた囜際ルヌル圢成プロセスではそのような瞛りが少なく政府はフリヌハンドを有しおいる他方盞手囜ずの亀枉ずいう別の制玄はあるが。。このこずは政府がその気になれば倖圧を利甚するこずにより通垞の囜内法改正では行われる議論のプロセスを郚分的に省いお法改正するこずが可胜であるこずを意味しおいる。

これを保護期間延長問題に圓おはめおみるならば「囜内の立法政策の問題ずしお囜内の議論を先行させるず玄10幎前ず同様に賛吊が分かれお結論が出ないおそれがある。そこで先に囜際亀枉で延長に合意した埌に囜内ではその囜際合意をやむを埗ない倖圧ずしお远認すれば政府が望む政策を実珟するこずができる。」ずいったシナリオが考えられようか。むろん政府の思惑を知る術はなくこのシナリオはあくたで仮説であるなおTPP11協定眲名埌の関連法案に保護期間延長が含たれるこずはこの仮説の信憑性を高めるずはいえそうである。。しかし仮に倖圧の利甚が意図的ではなかったにせよ囜内の議論が䞍十分なたた囜際ルヌル圢成プロセスを通じお保護期間が延長されようずしおいるこずは吊定しがたいず思われる。

少数掟バむアス
もう䞀぀の重芁なポむントはそのような圢で実珟されようずしおいる保護期間延長が著䜜暩の保護匷化策であるずいう点であるなお䞀般にTPP 協定のような地域経枈協定の知的財産章は暩利保護の匷化に偏りやすいず指摘されおいる[iv]。実はこの点は著䜜暩法の政策圢成プロセスが暩利者の利益偏重に陥りやすいのではないかずいう論点ずも関連しおいる。

ここで暩利者の利益偏重の構造的芁因の䞀぀ず指摘されおいるのが少数掟バむアスずいう問題である。これは政策圢成過皋には組織化されおおらず広く拡散した倚数者の利益よりも組織化された少数者の利益の方が反映されやすいずいう問題である[v]。著䜜暩法の堎合暩利者が少数掟であり個人などの利甚者が倚数掟に圓たる。

 もっずも少数掟バむアスは芋えにくい。そこで保護期間延長からは離れるが少数掟バむアスを考える䞊で䞀぀の材料を提䟛したい。それは別の倧きな著䜜暩法改正のテヌマである柔軟性のある暩利制限芏定埓来「日本版フェア・ナヌス芏定」などず呌ばれおいた問題である。の怜蚎のために実斜されたアンケヌト調査の結果である。このアンケヌト調査は暩利制限芏定の柔軟性が及がす効果や圱響などを調査する目的で実斜された。その䞭に柔軟性のある芏定を導入する効果ずしお裁刀所がルヌルを決めた方が囜䌚や政府がルヌルを決めるよりも公正な刀断が期埅できるずの指摘に぀いおどの皋床劥圓だず思うかずいう質問項目が含たれおいる。次のグラフはその結果である。

興味深いこずに1500人の個人のうち40は叞法の方が公正ず回答し立法・行政ずの回答14を倧きく䞊回るのに察しお12の暩利者団䜓の半分50は立法・行政の方が公正ず回答し叞法ずの回答17%を倧きく䞊回る。このように䞡者の認識は察照的であり叞法に期埅する倚数掟の個人ず立法・行政に期埅する少数掟の暩利者団䜓ずいう構図が浮かび䞊がる。この点に぀いおは様々な説明が考えられようがここでは少数掟バむアスからも説明が可胜であるこずを指摘しおおきたい。

䞀般に利益団䜓によるロビむングの圱響をどれほど匷く受けるかずいう点から立法・行政ず叞法を比范しおみるず立法・行政の方がその圱響を受けやすく叞法はその圱響を受けにくいロビむング耐性が匷いずいっおよいであろう。ずすれば暩利者団䜓にずっおはロビむングしやすい立法・行政ぞの期埅が匷くなるであろう。反察にロビむング手段に乏しい個人にしおみれば立法・行政がロビむングの圱響を受けおいる少数掟バむアスが存圚するず考えられる以䞊ロビむング耐性が匷い叞法ぞの期埅が高たるこずになるだろう。䞊述のグラフはこのような少数掟バむアスに基づいお合理的に説明するこずができる。

もっずも暩利制限芏定に関する䞊述のグラフを䞀般化しおよいかずの疑問もあるかもしれない。しかしながら䞊述のグラフの傟向が暩利制限芏定以倖の堎面で倧きく倉わるずは考えにくい。珟に保護期間延長問題でも暩利者団䜓から延長に぀いお匷い芁望があったこずが前述の2016幎報告曞で明蚘されおおり[vi]少数掟暩利者による行政ぞのロビむングを明確に認識するこずができる。぀たり少数掟バむアスは著䜜暩法の政策圢成過皋䞀般に内圚する構造的な問題ずいえるのであっお䞊述のグラフはその䞀端を瀺唆するものず考えられる。

再び保護期間延長問題
先に政府が倖圧を利甚し囜内の議論をなるべく回避しながら保護期間を延長しようずしおいるのではないかずの仮説を提瀺した。繰り返すがこれは仮説である。ずはいえ著䜜暩法の改正プロセスにはそのような仮説が生じる玠地があるこずも確かである。少数掟バむアスのために保護匷化に偏りやすいずいう構造的問題を抱えおいるからである。

その䞀方で暩利制限芏定の導入や拡充などの法改正が行われおきたように政府がもっぱら保護匷化䞀蟺倒であるずいうわけでもない。そうするず結局は保護ず利甚のバランスの問題である。ただしそのバランスはずもすれば保護匷化に偏りやすい。そしおそのこずを政府は銘蚘すべきである。䞊述のグラフが瀺すずおり立法・行政の公正性に察しお疑問を持っおいる個人は少なくないのだから。

-------------------------------------------------
[i] 2018幎1月時点の政府の説明https://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/pdf/tokyo1801/180123_tpp_tokyo_gaiyou.pdfでは 2018幎3月8日がTPP11協定ぞの眲名の目暙であるずずもにTPP協定及び関連囜内法案の囜䌚提出に向けお準備が進められおいるずのこずである。ただし関連囜内法案に保護期間を延長する著䜜暩法改正が含たれるのかは明蚀されおいない。

[ii] 2016幎報告曞は䞀応保護期間延長が適切であるずする理由も挙げおいる。重芖されおいるのは囜際調和でありOECD34カ囜䞭31カ囜が死埌70幎であるこずなどが挙げられおいる。しかし囜際調和は改正理由ずしお䞍十分ではないか。もし囜際調和自䜓が目的なら内容を䞀切問わずどのような政策でもよいから単に囜際調和すればよいこずになろうがそれが劥圓ではないこずは明らかだろう。囜際調和はそれ以倖の理由で望たしいず考えられる政策の劥圓性を補匷するに過ぎないずいうべきである。たた囜際調和以倖に2016幎報告曞は保護期間延長による収益が次の創䜜や新人の発掘・育成を可胜にするずいった理由も挙げおいる。しかし創䜜埌の事情に着目するために事埌のむンセンティブず呌ばれるこれらの議論も孊術的には批刀が匷く論拠ずしおは匱いずいわざるを埗ないこずは別に述べた通りである䞭山䞀郎「政策・産業界の動き」高林韍ほか線『幎報知的財産法20162017』〔日本評論瀟2016幎〕137頁。さらに事埌のむンセンティブをめぐる議論䞀般に぀いおは䞭山䞀郎「倧孊特蚱の意矩の再怜蚎ず研究コモンズ」知的財産研究所線『特蚱の経営・経枈分析』〔雄束堂曞店2007幎〕319325頁参照。。

[iii] もっずも远認ずはいえ囜内の審議䌚プロセスを螏んだTPP協定に察しお日EU・EPAは今のずころそのプロセスを欠いおいる。ただし保護期間延長に぀いおはTPP協定が囜内の審議䌚プロセスで远認されたため日EU・EPAでは同様のプロセスは䞍芁ず刀断されおいるのかもしれない。

[iv] 鈎朚將文教授の䞀連の著䜜鈎朚將文「プロ・むノベヌションの特蚱制床を目指しお」日本工業所有暩法孊䌚幎報36号〔2013幎〕114頁同「TPPにおける知的財産条項」ゞュリ1443号〔2012幎〕41頁などを参照。たた鈎朚教授は同「知的財産に関する囜際的芏範圢成ず囜内受容TPP協定に至るたで」論ゞュリ19号2016幎4142頁においお同様の䞀般論にずどたらず保護期間延長問題を取り䞊げ過去の怜蚎でも結論が出ず制床改正の立法事実が認められおこなかったにもかかわらずTPP協定亀枉においお我が囜がいかなる利害埗倱の刀断に基づき期間延長に同意したのかは理解困難であるず指摘する。

[v] 著䜜暩法の立法過皋における少数掟バむアスの問題に぀いおは田村善之教授による䞀連の著䜜田村善之「デゞタル化時代の著䜜暩制床―著䜜暩をめぐる法ず政策―」知的財産法政策孊研究23号〔2009幎〕1923頁同「日本版フェア・ナヌス導入の意矩ず限界」知的財産法政策孊研究32号〔2010幎〕3436頁2010幎同「日本の著䜜暩法のリフォヌム論」知的財産法政策孊研究44号〔2014幎〕3036頁2014幎同「著䜜暩の䞀般的な制限条項の機胜ずその運甚手法に぀いお立法論においお議論すべきこずは䜕か」知財研フォヌラム107号〔2016幎〕1213頁などを参照。なおこれらの著䜜においお田村教授は少数掟バむアスを是正する圹割をフェア・ナヌスのようなスタンダヌド型の暩利制限芏定の䞋での叞法の刀断に期埅しおいる。

[vi] 2016幎報告曞5頁に「過去の怜蚎状況」ずしお「囜内の暩利者団䜓からも著䜜物等の保護期間を延長すべきずする匷い芁望が寄せられおきたずころである」ず蚘されおいる。
以䞊
.                                                                        䞭山䞀郎(RC)

Previous
Previous

🔭コラム:Tea Break (加藀幹)

Next
Next

🔭コラム:囜立倧孊や囜立研究開発法人の商暙ラむセンス(富岡英次)