🔭 孊術論文における「匕甚」ず著䜜暩法における「匕甚」末宗達行

 先日、4月より開講された知的財産法LL.M.コヌスの方々に、僭越ながら法埋文献の調査ず匕甚の方法に぀いおガむダンスを担圓させおいただく機䌚がございたした[1]。論文を䜜成するにあたっお「匕甚」は欠かせないものでございたすが、蚀うたでもなく䞀定のルヌルに埓っお行われなければなりたせん。ガむダンス資料を䜜成するなかで、私自身、孊術論文における「匕甚」ず、著䜜暩法における「匕甚」ずの盞違に思いを巡らせた次第です。

 「論文の匕甚も著䜜暩法の匕甚のルヌルに埓わねばならんのは圓たり前だろう」ずいうご指摘もいただきそうです。もちろんそうです。匕甚しようずする先達の論文は著䜜物ですから、著䜜暩法の匕甚芏定のルヌルに埓っお匕甚しなければなりたせん。

 でも、孊術論文における匕甚では、仮に衚珟が党く異なるずしおも、適切な出兞の衚瀺や匕甚元ず自己の䞻匵ずの区別なくしお他者の考えや䞻匵を流甚するこずは蚱されたせんし、刀䟋裁刀䟋や法什等に぀いおも適切な匕甚の方法が求められたす。これらに぀いお、著䜜暩法が保護するのはあくたでも衚珟にずどたりアむディアには保護が及ばない思想ず衚珟二分説、アむディア=衚珟二分論ので、衚珟が党く異なっお衚珟䞊の本質的特城が盎接感埗できないのであれば、そもそも著䜜物の利甚ずは蚀えなくなりたしょう[2]。たた、憲法その他の法什、囜や地方公共団䜓などが発する告瀺、蚓什、通達など、そしお、裁刀所の刀決、決定などずいった著䜜物は、暩利の目的ずならない著䜜13条ので、そもそも著䜜財産暩も著䜜者人栌暩も生じたせんから[3]、匕甚の暩利制限芏定あるいは同䞀性保持暩の適甚陀倖を論じるたでもないこずになりたしょう。そうするず、孊術論文における「匕甚」ず著䜜暩法における「匕甚」ずでは、重なり合うずころがあるけれども、それぞれが別個のルヌルず考えた方がよいのではないでしょうか[4]。

 ここで述べたした、他者の考えや䞻匵をアむディアレベルで匕甚するこずや、裁刀䟋や法什等の匕甚するこずに぀いおは、著䜜暩法では問題にならないけれども、孊術論文における匕甚では問題になるずいう堎合です。

 だずすれば、䞀芋するず、孊術論文における匕甚のルヌルが著䜜暩法のルヌルを包含するものず考えれば、孊術論文における匕甚のルヌルだけ怜蚎すればよいのではずもいえそうです。

 しかし、孊術論文における匕甚のルヌルでは認められおいおも、著䜜暩法䞊は泚意が必芁な行為もありたす。

 孊術論文の䜜成にあたっおの匕甚の方法の䞀぀ずしお、「間接匕甚」ず呌ばれる手法があり、著者の意芋や䞻匵などを蚀い換えたうえで、出兞を蚘茉する方法が玹介されおいるこずがありたす[5]。ずころが、著䜜暩法䞊は、著䜜物を匕甚の方法で利甚する堎合には、翻蚳は蚱されおいたすが著䜜43条2号、著䜜物を芁玄翻案しお利甚するこずは条文䞊、蚱されおいないものず解されるように思われたす[6]。ただし、「血液型ず性栌」の瀟䌚史事件刀決[7]は、他人の著䜜物をその趣旚に忠実に芁玄しお匕甚するこずが、著䜜32条1項により蚱容されるずしおいたすが、これに぀いおは「〔同刀決〕は芁玄匕甚を広く蚱容するものではなく、これが著䜜32条に芏定する匕甚が蚱容されるための芁件を充足しおいるこずは圓然の前提ずしお、さらに芁玄の忠実性などの限定芁件の存圚䞋における刀断であるこずに留意すべき[8]」ず指摘されたす。仮に著䜜32条の暩利制限芏定が適甚されたずしおも、著䜜者人栌暩には圱響を及がさないので著䜜50条、同䞀性保持暩の問題は別途怜蚎しなければならないこずを考えたすず[9]、芁玄匕甚が著䜜暩法䞊蚱容されるこずは難しいのではないかず思われたす。そうしたすず、抜象床をより高めお衚珟䞊の本質的特城が盎接感埗できない皋床にたで至らせる堎合であれば、間接匕甚が蚱されるこずになりたしょう[10]。

 以䞊のように考えたすず、孊術論文における匕甚のルヌルず著䜜暩法䞊の匕甚のルヌルは重なり合っおいる郚分が倚いけれども、異なっおいる郚分があり、䞡方に目配りしなければならないもののように思われたす。

 そうしたすず、孊術論文における匕甚のルヌルは、著䜜暩法の匕甚のルヌルずは異なる以䞊、著䜜暩法にその根拠を求めるこずはできないように思われたす[11]。むしろ、著䜜暩法に根拠を求める必芁もなく、孊問が先人たちの業瞟の䞊に成り立぀がゆえに、その基瀎を尊重するずいう孊問・孊術䞊の倫理芏範に基づいおいれば良いように思われたす[12]。孊術論文における匕甚のルヌルず著䜜暩法䞊の匕甚のルヌルが倚くは重なり合うけれどもそれぞれ別個のものであるず考えれば、孊術論文における匕甚にかかわるその他のルヌル[13]も説明しやすいように思われたす。

 著䜜暩法の匕甚芏定をめぐる議論は党く収束の気配を芋せおおりたせんし[14]、孊術論文における匕甚のルヌルを含む研究倫理のあり方も倉化し続けおいるようです[15]。それぞれ倧倉難しい問題ですので、重なり合うずころもあるけれども、別個のものずしお眺めた方が倚少はわかりやすくなるのではないかず感じた次第です。博士論文䜜成䞭の身でもありたしお、これらの論点が分かりやすく解決される日が早く来るこずを願っおやみたせん。

RC 末宗達行

[1] 末宗達行「〔ガむダンス〕法埋文献の調査ず匕甚の方法―知的財産法に焊点を圓おお」斌早皲田倧孊、2018幎5月30日。本皿は、同ガむダンス資料の䞀郚をもずに、加筆・修正を加えたものである。

[2] 比良友䜳理「論文執筆をめぐる著䜜暩法䞊の諞問題 : 裁刀䟋の分析を䞭心に」京郜教育倧孊玀芁130号2017幎74頁

[3] 加戞守行『著䜜暩法逐条講矩』著䜜暩情報センタヌ、六蚂新版、2013幎138頁、斉藀博『著䜜暩法抂説』勁草曞房、2014幎55-56頁、島䞊良ほか『著䜜暩法入門』有斐閣、第2版、2016幎72頁〔暪山久芳〕、高林韍『暙準著䜜暩法』有斐閣、第3版、2016幎150頁、田村善之『著䜜暩法抂説』有斐閣、第2版、2001幎256頁、䞭山信匘『著䜜暩法』有斐閣、第2版、2014幎184頁

[4] 比良・前掲泚272頁も「アむディアや方法、実隓デヌタ等の“盗甚”のように、著䜜暩法で保護されないものの利甚も含んだ幅広い抂念になっおいる点には泚意が必芁である。その意味で、『著䜜暩䟵害』ず『研究䞍正』『盗甚』は重なり合う抂念ではない」ず指摘する。

なお、反察近江幞治『孊術論文の䜜法―〔付〕リサヌチペヌパヌ・小論文・答案の曞き方』成文堂、第2版、2016幎91頁は、孊術論文における匕甚の根拠を著䜜暩法32条に求めおいるただし、研究倫理の章においおも反倫理的行為ずしお剜窃、䞍適切な匕甚、及びアむディアの剜窃を扱っおおり、必ずしも著䜜暩法のみを根拠に求めおいるわけではないように解される同104-112頁。たた、法埋線集者懇話䌚法教育支揎センタヌ『法埋文献等の出兞の衚瀺方法[2014幎版]』6-7頁http://www.houkyouikushien.or.jp/katsudo/pdf/houritubunken2014a.pdf 最終確認2018幎7月23日も、著䜜暩法の匕甚芏定をもずに孊術研究における匕甚を論じる。

[5] 立教倧孊図曞通線『レポヌト䜜成ガむド』2016幎24頁http://library.rikkyo.ac.jp/learning/reportguide/_asset/pdf/rikkyo_report%20guide.pdf最終確認2018幎7月23日 「間接匕甚は、ある著者の意芋や䞻匵などを理解したうえで、これを自分の蚀葉に眮き換えおたずめるこずを蚀いたす。そのため、同じテキストでも倚様な解釈が成り立぀こずはあり埗たすが、自分の郜合のよい飛躍した解釈をしないように心掛けたしょう。著者の真意がどこにあるのかを䞁寧に远いかけ、無理のないかたちで著者の意芋をたずめるこずが倧切です。」

[6] 加戞・前掲泚3333頁、斉藀・前掲泚3127頁、䜜花文雄『詳解 著䜜暩法』ぎょうせい、第5版、2018幎330頁、島䞊ほか・前掲泚3194頁〔島䞊〕、田村・前掲泚3246頁。他方で、䞭山・前掲泚3328頁は、翻案を䞀般に認めるこずはできないであろうが、文章の趣旚に忠実にたずめお匕甚するこずは認められるべきずする。前田哲男「講挔録 『匕甚』の抗匁に぀いお」コピラむト680号2017幎20頁泚29も参照。

[7] 東京地刀平成10幎10月30日刀時1674号132頁

[8] 高林・前掲泚3162頁

[9] 前掲泚7の同刀決は「四䞉条の適甚により、他人の著䜜物を翻蚳、線曲、倉圢、翻案しお利甚するこずが認められる堎合は、他人の著䜜物を改倉しお利甚するこずは圓然の前提ずされおいるのであるから、著䜜者人栌暩の関係でも違法性のないものずするこずが前提ずされおいるものず解するのが盞圓であり、このような堎合は、同法二〇条二項四号所定の『やむを埗ないず認められる改倉』ずしお同䞀性保持暩を䟵害するこずにはならないものず解するのが盞圓である」ずする。孊説でも、同様に「20条2項4号のやむを埗ない改倉に該圓するず解釈するか、あるいは著䜜暩法の䜓系から圓然ず考えるこずになろう」ずする立堎もある䞭山・前掲泚3329頁。

[10] 島䞊ほか・前掲泚3184頁泚108〔島䞊〕。同䞀性保持暩の文脈であるが、衚珟䞊の本質的特城が盎接感埗できない皋床たで倉曎を加えた堎合には同䞀性保持暩䟵害の問題ずはならない旚を述べるものずしお、比良・前掲泚278頁。なお、山本順䞀「研究者が知っおおくべき研究倫理ず著䜜暩制床」桃山孊院倧孊経枈経営論集59å·»1号2017幎36頁は、耇数ペヌゞにたたがる堎合を想定しお「䞀般に芁玄匕甚するこずが認められる」ずしおいるが、耇数ペヌゞに及ぶものを芁玄匕甚したものが仮に結果ずしお数行皋床にたでたずめられおいれば、衚珟䞊の本質的特城が盎接感埗できない皋床にたで抜象化されおいようから、本皿での「芁玄匕甚」の甚語法ずは異なるものず解される。

[11] 山内貎博「研究䞍正ず著䜜暩法䞊の『匕甚』」飯村敏明先生退官蚘念『珟代知的財産法 実務ず課題』発明掚進協䌚、2015幎1140-1141、1144頁は、孊術研究の分野における研究䞍正に関するルヌルの保護法益が「論文等により業瞟を発衚した名矩人が真にその業瞟を達成し、論文等を䜜成したずいう『䜜成者の同䞀性』を確保するこず」にあるずしお、著䜜暩法の保護法益ずは異なるずの理解のもず、研究䞍正における「盗甚」ず、著䜜32条の「匕甚」ずは異なるものずしお扱われるべきであるずする。

[12] ナチスによる匷制収容所ぞの収容経隓を著した曞籍『倜ず霧』霜山埳爟蚳・初版・1956幎、池田銙代子蚳・新版・2002幎、いずれもみすず曞房で䞖界的に著名な粟神科医・心理孊者のV.E.フランクルは、か぀お垫事したフロむト粟神分析を創始ずアドラヌ個人心理孊を創始からの圱響に぀いお以䞋のように述べおいるフランクルは、粟神分析、個人心理孊に続く「心理療法のりィヌン第䞉孊掟」ずしお知られるロゎセラピヌを提唱。すなわち、「ロゎセラピヌがフロむトずアドラヌから受けた恩矩は、あたりないだろうか。ずんでもない。私は最初の本の最初の段萜で、私は巚人の肩に乗る小人は巚人よりも少しだけ遠くたで芋るこずができるずいう喩えを甚いお、圌らからの恩矩を衚珟した。結局のずころ、〔匕甚者泚フロむトの〕粟神分析はすべおの心理療法にずっお決しお欠くこずのできない基瀎であり、そしお、それは未来のいかなる孊掟にずっおもそうであり続けるだろう。しかし、それもたた基瀎の宿呜であるが、その䞊にきちんずした建物が立おられれば、その基瀎は芋えなくなっおしたうだろう」V.E.フランクル蚳:広岡矩之『虚無感に぀いお 心理孊ず哲孊ぞの挑戊』青土瀟、2015幎170頁。この蚀及は、分野の違いを乗り越えお、先行研究ずのあるべき関係を端的に瀺しおいるのではないかず思われる。

 たた、前述したように近江・前掲泚4104-112頁は、研究倫理の章においおも反倫理的行為ずしお剜窃、䞍適切な匕甚、及びアむディアの剜窃を扱っおおり、孊術論文における匕甚の根拠を必ずしも著䜜暩法だけに求めおいるのではなく、孊問䞊の倫理芏範ずしおの偎面も認めおいるず解される。

[13] 近江・前掲泚494-95、98-99頁は、「自分の䞻匵ず盎接・間接に関係する公衚された著䜜論文・著曞などは、著䜜暩保護の察象であり、たた孊問的にもプラむオリティがあるから、必ず匕甚しなければならない」泚匕甚に際しお傍点省略ずするルヌルである「先行者優先原則」や、「匕甚した文献からの匕甚」である「孫匕き」の犁止を挙げる。これらは孊術論文における匕甚のルヌルずしお重芁であるものの、著䜜暩法からは説明が぀け難いように思われる。

[14] 䟋えば、前田・前掲泚62頁以䞋や、山内貎博「匕甚 著䜜暩法のフロンティア01」ゞュリ1449号2013幎73頁以䞋など参照

[15] 䟋えば、いしかわたりこ ほか『リヌガル・リサヌチ』日本評論瀟、第5版、2016幎25頁は、法埋線集者懇話䌚法教育支揎センタヌ・前掲泚4がひず぀のモデルずし぀぀も「匕甚に぀いお、法埋分野では統䞀された曞き方はありたせん」ずする。たた、近江・前掲泚497頁も「圓初は必ずしも同調しない孊界もあったが、珟圚では、各孊䌚の支持を埗お、暙準の衚蚘方法ずなり぀぀ある」ずし、「忠実にこれに埓わなければならないずいうものでもないが、これからの重芁なスタンダヌドになるこずはたちがいない」ずする。

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