新聞切り抜き(結城命夫)

 今時、新聞記事の切り抜きをしている人も珍しいかと思う。実は私はそのひとりで、趣味で行っている。ガラケー(ガラ携)を持つ人が稀であると同じくらい稀かもしれない。情報がデジタル化されている時代に今更の感があるものの、自分流の情報収集を楽しんでいる。集めた結果よりも集める途中を楽しんでいるのかもしれない。新聞の切り抜きのことは「クリッピング」と言うらしいが、いかにも昭和世代の人間がやりそうなクリッピングを紹介したい。

 始めたのは会社勤めのサラリーマン生活を終えてしばらく経って、2005年からである。以来、17年になるが、スクラップ数は2000枚を超えた。テーマは限定していないが過去の仕事柄、化学技術、化学物質の安全性や取扱い、環境問題、化学工場トラブル、品質管理、製造物責任などの記事は特に気になる。最近は知的財産法制に関する記事の切り抜きも目立つ。今は主に2紙を対象にしている。

切り抜き

 先ずは気になる記事を普通に切り抜く。これはまめに行わないとすぐに新聞の山になってしまって家族の顰蹙をかう。切り抜きにはハサミ、ペーパーナイフ、切り抜き用カッターを使うが、特にカッターについては使い勝手は様々だ。手にしっくりくること、手元が見やすいこと、まっすぐにぶれずに動かしやすいこと、軽いこと、机の上において邪魔にならない形状であることなどが選択条件である。なかなか気に入ったカッターに遭遇しない。長いこと使っているCONDE CUTTERというのがお気に入りである。ところが、現在はこの商品が見つからず、買い替えができない。替刃7枚入り200円の替刃セットが売っていたのだがこれも見つからない。替刃はあと1枚しか残っていないので今後どうしたものか思案している。

 切り抜いた記事は、昔であればスクラップブックに糊付けだが、今の時代だからPDFにスキャンしてパソコンに保存している。スキャンはするが他人に情報を流すわけでもなく、全くの個人利用なので著作権法上は許されると認識している。保存時の名前は例えば[210820-ne]といった記事番号を付ける。2021年8月20日の日経新聞夕刊の記事という意味である。ここまでだと紙媒体保存が電子媒体保存に替わったに過ぎない。

リストの作成

 時間を見つけては、PDF化した切り抜き記事をExcel表でリスト化している。コンピュータ知識に長けていればもっと良いツールがあるのだろうが、疎いから仕方がない。Excel表は各行に「記事番号(日付)」を先頭にして、第二枠は分野欄にしてある。それから①「項目(何について)」、②「事象(何があった)」、③「物質や対象」、④「人・組織」の4枠を設けてある。ここには記事の中からキーワードを選びそれを書き込む。最終枠に「所見」欄を設けてあり、自分の理解やショートコメントを書き込む。「記事番号(日付)」にはリンクが貼り付けてあり、クリックすると該当記事のPDFに辿り着くようになっている。

実際の表を例示すると以下のようなものである。勿論空欄があってもよい。

   できたExcel表は写真アルバムを見るが如くに見て楽しめばよい。もっと詳しく知りたい時は、元の新聞記事を開くことができる。キーワードで検索も可能である。

試しに検索

 先日は、【新型インフルエンザ】で検索してみた。2009年5月から約1年間流行したインフルエンザの記事が23枚リストアップされた。12年前のインフルエンザ記事に「ウィルスの正体」、「ワクチン確保」、「ワクチン接種」、「簡易検査」、「パンデミック」、「治療薬」、「機内検疫」、「WHO」、「自宅療養」、「タミフル」、「優先順位」、「最悪時のシナリオ」、「水際作戦」、「感染者数」、「高リスク者」、「ワクチン製造」、「危機対応力」、「専門家会議」、「感染拡大試算」、「自宅療養」、「流行1年」等々のワードが満載である。現在の新型コロナウィルス記事に出てくるワードは12年前に頻繁に新聞に載っていた。進歩してないなぁとは言いたくない。結局は繰り返しなんだ、と自分を納得させている。自分流スクラップでこんなことも見つけては頷いている。

使い易さを求めて

 切り取った記事をExcel表でリストにしているわけだが、見易く、使い易くするために、フォーマットの見直しや記入したワードの見直しを行う。一例を紹介する。2012年3月6日の記事として、リチウムイオン電池の出荷世界シェアで韓国が日本を抜いて1位になったことがExcel表に載っている。分野欄に「化学」となっている。直ぐ下段は3月14日の記事で、日本化学会は鈴木梅太郎氏が最初に結晶化成功したビタミンB1の標本を化学遺産に認定した、とある。これも分野欄は「化学」とある。10年近く前の記事だが、最近この部分が目に留まり「二行並んで両方とも「化学」と分類するのは安直すぎるなぁ、前者は電気化学工業と、後者は農芸化学とでも分類するのが良いかもしれない」として、変更を行った例がある。こんな間違い探しみたいなことをやりながら自分なりの電子版スクラップブックを作るのを楽しんでいる。

新聞を電子版で読む時代に、はさみとカッターでの切り抜きは周回遅れだが趣味としてしばらく続けようと思う。ところで「切抜の日」と言うのが有るのをご存じですか。3月1日だそうです。 

〈結城命夫〉

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