EUにおけるオンラインプラットフォーム規制(張睿暎)

 GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの4社を指す)を筆頭とする超巨大オンラインプラットフォームは、今や私たちの日常のあらゆるところに深く関わっている。これらのサービスは社会的・経済的なトランスフォーメーションに大いに貢献してきたが、同時に新たな問題の原因にもなっている。さらに、新型コロナウイルス感染症による危機は、私たちの生活のさまざまな場面におけるデジタル技術の不可欠さを再認識させ、これらサービスに対する現行の規制を再考するきっかけにもなった。

 EUでは、2020年12月15日、欧州委員会(European Commission)が、待望のデジタル立法案(proposal)を2つ採択した。「デジタルサービス法(Digital Services Act)」と呼ばれる今回の法案は、オンラインプラットフォームなどのデジタルサービスを規制する域内市場のルールをハーモナイズし、利用者保護を強化する内容である。そして「デジタル市場法(Digital Markets Act)」と呼ばれるもう一つの法案は、デジタルプラットフォーム業界における公正性を強化する内容である。両者を合わせて「デジタルサービス法パッケージ(Digital Services Act Package)」といい、デジタル単一市場のゲートキーパー(gatekeepers)であるオンラインプラットフォームや、将来ゲートキーパーになりうるオンラインプラットフォームに様々な義務を課す内容となっている。

 EUレベルでプラットフォームに対する規制が本格的に議論され始めたのは、「デジタル単一市場戦略(Digital Single Market Strategy[1])」が契機であるといえる。Jean-Claude Juncker氏率いる欧州委員会は、2015年5月6日、デジタル単一市場戦略を公表し、プラットフォーム業界に対するモニタリングを始めた。

 2015年9月24日から2016年1月6日まで行われたパブリックコンサルテーションの結果をまとめた「プラットフォーム、オンライン媒介者及び共有経済のための規制環境に関するパブリックコンサルテーションの結果レポート[2]」では、オンラインプラットフォームの権利侵害行為・一貫性のない規制・不公正な取引慣行が指摘され、プラットフォームの不透明性、プラットフォームと利用者との力関係、データアクセスへの制約、違法コンテンツ撲滅とオンライン媒介者の責任制限など、さまざまな問題が提起された。これらを踏まえ、欧州委員会は2016年5月25日、今後の方向性を示す「オンラインプラットフォームとデジタル単一市場:欧州のための機会と挑戦[3]」を公表した。

 2017年5月10日の「デジタル単一市場戦略の実施に関する中間レビュー:すべての人のための繋がれたデジタル単一市場[4]」では、プラットフォームが情報やオンライン取引などへのアクセスを媒介しながら、インターネット上の「核心的なゲートキーパー(key gatekeepers)」になったと述べ、これらプラットフォームの一部に、公正性・透明性・明確性の欠如が懸念される取引慣行があることを指摘した。そして、オンライン違法コンテンツと戦うためには、すべての利害関係者による断固たる行動が必要であること、これら問題を素早く効果的に規制するために競争法の執行を強化し、その他の必要な立法措置を講ずるとした。

 関連して、2018年4月26日、プラットフォーム運⽤上の透明性向上、プラットフォーム利⽤者による苦情処理システムの確⽴を通じて、オンライン市場における公正な競争を確保することを⽬的とする「ビジネスユーザーのためのオンライン媒介サービスの公正性及び透明性の促進に関する規則案」が提案され、2020年7月12日付で施行された[5]

 2019年12月、Ursula von der Leyen欧州委員会委員長が就任し、EUの新体制が発足した。von der Leyen委員長は、2019年7月の候補時代に、自らの政策ガイドラインにおいて、任期内の6大政策目標の一つとして、「デジタル時代にフィットするヨーロッパ戦略(A Europe fit for the digital age)」を提示し、その一環として、デジタルプラットフォームやサービスの責任と安全に関するルールをアップグレードし、デジタル単一市場を完成させるべく、デジタルサービス法(Digital Service Act)を導入すると明かしていた[6]

 2020年2月19日には、「欧州のデジタル未来を形作る(Shaping Europe’s Digital Future)」というコミュニケーションを発表し、「デジタルサービス法パッケージ」として、ゲートキーパーとして機能する巨大なプラットフォームを特徴とする市場の公正性を保障するための事前規則、オンラインプラットフォームと情報サービスプロバイダの責任を強化するルールをキーアクションとして提示した[7]

このような背景で、欧州委員会は2020年6月2日、デジタルサービス法(Digital Service Act:DSA)と新たな競争法ツール(New Competition Tool:NCT)のロードマップを公開し、同日から9月8日までの約3ヶ月間、2つのパブリックコンサルテーションを実施した。これら意見収集を経て、前述した通りに、2020年12月15日に、「デジタルサービス法(Digital Services Act:DSA規則案[8])」と「デジタル市場法(Digital Markets Act:DMA規則案[9])」の2つからなる「デジタルサービス法パッケージ(Digital Services Act Package)」が採択されたわけである。

 日本でも2020年5月27日に「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(取引透明化法)」が成立し、2021年2月1日に施行された。4月1日には、アマゾンジャパン合同会社、楽天グループ株式会社、ヤフー株式会社、Apple Inc.及びiTunes株式会社、Google LLCが、「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定された。取引透明化法は、プラットフォームの透明化・公正化を目標とするEUのデジタルサービス法パッケージと通じる部分があるが、規制対象であるプラットフォームの規模や事業内容がより限定的であり、プラットフォームの自主的な取組みを優先するところが特徴である。

 今回のデジタルサービス法パッケージが、今後EUにおけるプラットフォーム規制のあり方をどう変えていくかは、日本におけるプラットフォーム規制にも参考になるものであり、その成功の可能性が注目されるところである[10]

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[1] European Commission, Communication - A Digital Single Market Strategy for Europe COM (2015)192 final.

[2] European Commission, Full Report on the Results of the Public Consultation on the Regulatory Environment for Platforms, Online Intermediaries and the Collaborative Economy.

[3] European Commission, Communication from the Commission to the European Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions - Online Platforms and the Digital Single Market - Opportunities and Challenges for Europe, COM/2016/0288 final.

[4] European Commission, Communication from the Commission to the European Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions on the Mid-Term Review on the Implementation of the Digital Single Market Strategy - A Connected Digital Single Market for All COM/2017/0228 final.

[5] Regulation (EU)2019/1150 of the European Parliament and of the Council of 20 June 2019 on Promoting Fairness and Transparency for Business Users of Online Intermediation Services PE/56/2019/REV/1.

[6] Political Guidelines for the Next European Commission 2019-2024, ‘A Union That Strives for More - My Agenda for Europe' By Candidate for President of the European Commission Ursula von der Leyen (Jul 16, 2019) p.13-14.

[7] European Commission, Communication - Shaping Europe’s digital future. p.5-6.

[8] European Commission, Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on a Single Market for Digital Services (Digital Services Act) and Amending Directive 2000/31/EC COM(2020)825 final.

[9] European Commission, Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on Contestable and Fair Markets in the Digital Sector (Digital Markets Act) COM(2020)842 final.

[10] EUにおけるプラットフォーム規制の概要およびデジタルサービス法規則案の検討については、拙稿「欧州におけるプラットフォーム規制とデジタルサービス法(Digital Services Act)規則案の意義」獨協法学第115号(2021年8月)211-244頁を参照されたい。


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